「キラさん! ダメですよ、そんな薄着で」
 言葉とともに肩にショールが掛けられる。
「レイ君」
 でも、とキラは言い返す。
「屋内だし、ここは特に温かいよ?」
 だから、大丈夫ではないか。そう言って微笑む。
「それでも、ダメです」
 レイはこう言って彼女の顔をにらみつけた。
「今が一番大切な時期なんです。ですから、注意に注意を重ねてください」
 それが出来ないんであれば、自分たちがキラの身柄を預かっている意味がない。そうも彼は続ける。
「レイ君……ずいぶん、口うるさくなったね」
 渋々ショールを巻き直しながら、キラは呟く。
「ギルとラウだけならばともかく、ラクス様にも頼まれていますからね」
 彼女だけは敵に回したくない、とレイはため息をついた。
「ギルやラウなら、頭ごなしに文句も言えますが……ラクス様は無理です」
 さらに彼は言葉を重ねる。本心からそう言っているのだ、とその声音からわかった。同時に、ラクスはどこまで本性をさらしているのだろうか、と不安になる。
「そう言えば、ラクスは元気かな?」
 話題を変えようとしたわけではない。それでも、ラウやギルバートと違って、彼女にはなかなか会うことが出来ないから気にかかってしまうのだ。
「お元気だという話ですけど……」
 自分も実際に顔を合わせたわけではないから、とレイは言う。その理由はわかっていた。彼は治療のために休暇を取っていたのだ。その間、ほぼ、病院とギルバートの家の往復だったといえる。
 本当はそんな時に訪問するのはまずいのではないか、と考えていた。この時期でも、他の誰か――例えばラクス――の所に宿を借りようと思っていたことも事実。しかし、ギルバートが公私混同に近い形でキラとラウを自宅へと招くと決めてしまった。
 彼の屋敷には最新の医療装置が一通り揃っているから。それが彼の説明だった。
 もちろん、それだけではないこともわかっている。
「今度、ギルに食事に招待して貰いましょう」
 そう言ってレイが微笑む。
「そうだね。ギルさんが忙しくないときに、そうして貰おうか」
 キラも即座に笑みを浮かべた。
「その前に、お茶に付き合って頂けますか? 相手が俺で申し訳ありませんが」
 代わり映えもなくて、と彼は続ける。
「いつでも、お茶に付き合ってくれるなら嬉しいよ」
 言葉とともに慎重に体の向きを変えた。
 最近、いつも通りの行動を取ろうとすれば周囲の者達が怒るのだ。特に、ラウは自分がいないときにはキラをベッドに縛り付けかねないほどである。
 流石に、それはキラの健康のためにもよくない、という周囲の説得がなければ、彼は間違いなく実行に移していただろう。
「でも、みんな、過保護だよね」
 小さなため息とともにキラはこう呟く。
「それは当然です。もっとも、俺もラウがあそこまで過保護になるとは思いませんでしたが……」
 というよりも、彼が自分の子供を欲しいと言い出すとは思わなかった……とレイは続ける。
「母さんに押し切られたんじゃないかな?」
 苦笑と共にキラはこう言い返す。
「子供のことを考えていなかったのは、僕も同じだけどね」
 そのまま、彼女はこうも付け加えた。
 自分のような存在が子供を作ってもいいものか。それがわからなかったのだ。
 それでも、やはり好きな相手の子供を産みたいという欲求があったことも否定しない。
「ここまで大事になるとは思っていなかったけど」
 そう付け加えたときだ。慌てたような表情で執事が駆け寄ってくる。
「……何かあったのでしょうか」
 レイがこう言って顔をしかめた。
「でも、今はテロも落ち着いているんだよね?」
 だからこそ、自分がオーブを離れることを許可されたのだし、とキラは呟く。
「確認した方が早そうですね」
 レイはそう言うと、足早に彼へと歩み寄っていった。

 しかし、それを後悔することになるとは思わなかった。



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