しかし、連れて行かれたのはどう見てもパーティの会場ではない。むしろ、教会か結婚式専門のチャペルといった雰囲気の場所だ。
「……バルトフェルド隊長?」
 いったい、何を企んでいるのか。キラがそう言った瞬間である。
「キラ!」
 ミリアリアが駆け寄ってきた。その手にはアスランが渡してくれたレノアのベールがある。
「いったい、何なのか、説明してよ」
 この状況が、とキラは叫ぶ。
「決まっています。結婚式ですわ、貴方の」
 背後からラクスの声が響いてくる。
「君達が何かしていると思えば、これだったんだ」
 ため息とともにキラはそう言う。
「でも、何で? 普通、こういう事は当事者が自分たちで計画するものでしょう?」
 せめて、教えておいて欲しかった……と親友をにらみつける。
「そうしたら、わたくしが参列できませんもの」
 それでは意味がない、と彼女は言い切った。
「キラの結婚式の場にわたくしがいないなんて、考えられませんわ」
 だから、勝手とは思ったのだが計画をさせて貰ったのだ……と彼女は微笑む。
「それに、ここでしたらアスランもエルスマン様達も参加できましてよ?」
 カガリも許可してくれたし、マルキオがカリダ達を連れてきてくれた。だから、何も問題はない。そう言って彼女はさらに笑みを深めた。
「ドレスだけは大変でしたけど……ね」
 それに関しては妥協して貰いましょう、と口にしながら彼女はベールをそっとキラにかぶせる。
「ということで、後はハルマ様にお願いしましょう」
 花嫁を花婿に手渡すのは父親の役目だ。ラクスの言葉に視線を向ければ、そこには困ったような表情の父がいた。
「父さん……」
「マルキオ様のおかげで間に合ったよ」
 後はきっと、カガリが手を回してくれたのだろう、と彼は苦笑を浮かべる。
「もっとも、そうでなかったとしても、この役目を他の誰かに渡すつもりはなかったしね」
 これは父親としての特権だ、と彼は続けた。
「父さん」
「別に結婚式を挙げたからと言って、今までの何も変わるわけではないだろう?」
 でなければ邪魔をしたかもしれないが……と言うのは冗談なのだろうか。それとも、と思う。
「では、キラ。式場でお待ちしておりますわ」
 一足先に彼女たちは式場の中に入っていく。
「本当に、ラクスもカガリも……」
 その姿を見送りながら、キラは思わずこうぼやいやいてしまった。
「君達がいつまでも中途半端なのが悪いね」
 笑いながら、ハルマがこう言い返してくる。
「では、行こうか」
 そのまま彼は手を差し出してきた。ため息とともにキラは彼の肘に手を添える。それを待っていたかのように一度閉じられたドアが大きく開いた。
 視線の先に、微苦笑を浮かべたラウの姿が確認できる。
 その彼に向かって、キラはハルマに導かれながら歩き出した。
 バージンロードの左右には顔見知りの者達の姿が確認できる。何よりも、ギルバートまでがここいるのだ。周囲の警戒その他は大丈夫なのだろうか、と一瞬悩む。
 だが、バルトフェルド達が動いているのだ。自分が心配する事はないのだろう。すぐにそう考える。
 それでも、後できちんと確認しないと。
 心の中でついついそんなことを呟く。だが、気が付いたときにはもう、そんなことはどうでも良くなっていた。
 ラウが手を差し伸べてくれている。ハルマに促され、キラはその手に自分のそれを重ねた。



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