白を基調としたドレスはその色のせいか、別の意味を持つものを連想させる。
「……これでベールをかぶれば、花嫁だよね」
 鏡の中に映し出された自分の姿を見ながら、キラは小さな声でそう呟く。
「でも、やっぱり、軍の礼服の方がよかったな」
 動きやすくて、とため息をついた。
「でも、カガリが大人しくドレスを着る条件だって言うし……」
 この方がラウが喜んでくれるし、とキラは自分に言い聞かせるように呟く。
「何より、ラクスが怖いもん」
 にっこり笑って釘を刺されたのだ。あんな表情をしたときの彼女に逆らったらどうなるか。アークエンジェルやエターナルにいたもので知らないものはいない。
「本当に、ラクスって最強だよね」
 他の人間が聞けばきっと『キラの方が』というだろう。だが、幸か不幸か、ここにいるのは彼女だけだ。だから、その事実を指摘するものはいない。
「でも、歌うだけじゃないんだよね、きっと」
 何かを企んでいる。だから、自分にしっかりと命じたのではないか。それはそれで怖いような気がする。そんなことを考えていたときだ。
「キラ。用意が出来ているか?」
 ノックの音と共にこう問いかけられる。しかし、その問いかけの主はキラが予想していなかった人物だ。
「バルトフェルド隊長?」
 てっきり、ラウかムウが来ると思っていたのに。そう思いながら言葉を返す。
「出来ていますけど……でも……」
 どうして、と首をかしげる。そうすればすぐに「入るぞ」という言葉とともにドアが開いた。
「あいつらは、今、ラクスとカガリにこき使われている。だから、俺が来ただけだ」
 そう言いながら笑っている彼が身に纏っているのは、オーブの軍服ではなく、三年前、彼がエターナルで身につけていたザフトの軍服だ。
「バルトフェルド隊長?」
 ザフトに戻るのか、と言外に問いかける。
「とりあえず、今日の所は、こちらの方が都合が良さそうでな」
 ラクスの傍にいるためには、と彼は続けた。
「俺としては、いつもの恰好の方が気軽でいいんだが」
 いつもの恰好とは、あのアロハ姿なのだろうか。そう言えば、最初にあったときも彼が身につけていたのはアロハシャツだったような気がする。
「でも、似合っていると思いますけど?」
 色々な意味で、とキラは言い返す。
「ほめ言葉と受け取っておこう」
 ついでにラウに自慢してやろう、と彼は笑った。
「というわけで、エスコートをさせて貰おうか」
 他の誰かにさせるよりも自分の方がいいだろう。
「……ラクスに何か言われました?」
 キラは思わずこう問いかける。
「そのあたりは、ノーコメントにしておこう」
 本人に聞け、と彼は笑う。
 ということは本当に彼女が何かをしているということだろう。
「本当にラクスは……」
 何を考えているのか、とキラはため息をつく。
「まぁ、ラクスだからな」
 実際、彼女の人脈がどこまで広がっているのか。それに関しては自分もわからない。そう言ってバルトフェルドがため息をつく。
「だからこそ、楽しいがな」
 そう言う意外性が、と彼は続ける。
「同じ理由で、お前達の手助けも楽しいんだが……まぁ、お前達にはあいつらもいるしな」
 ラクスのストッパーになれそうなのは自分しかいないが……と言いながら、彼は手を差し出してくる。その手を借りて、キラは立ち上がった。
「……やっぱり、ヒール、高すぎるよ」
 なれていないって言ったのに、とキラは呟く。
「大丈夫。ちゃんと支えてやる」
 だから、安心して足元だけに集中しろ。そう言われて頷いてみせる。
「じゃ、ラクスを怒らせる前に行くか」
 さらに付け加えられた言葉に、ゆっくりと足を踏み出した。



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