戦争は終わったものの、警戒を怠ることは出来ない。
 どこにブルーコスモスの残党が潜んでいるかわからないのだ。条約を締結するまでに何かあれば、このかりそめの平和が壊されかねない。
 それだけは、何としても避けなければいけないことだ。
「まったく……せっかく戦争が終わったのに」
 控え室で待機しながら、シンはこう呟く。
「完全には終わっていないがな」
 こう言ってきたのはハイネだ。
「……意味、わかんねぇんすけど」
 地球軍が投降したところで終わったのではないか、と言外に問いかけた。
「条約が締結されるまでは、まだ終戦じゃないんだよ」
 だから、どこかでひっくり返される可能性もある。要人の暗殺なんかがあれば一発だ、とハイネが言い返してきた。
「オーブ軍が警戒しているのもそのせいだろう」
 代表であるカガリ、そして、軍の要であるキラ。あの二人を守るために警戒を強めているはずだ。そうも続ける。
「マルキオ氏もおいでになるしな」
 ギルバートも含めて暗殺の対象となりそうな者達ばかりではないか。
 こう言われてはシンだって、ゆるんでいた気持ちを引き締めざるを得ない。
「一番厄介な連中はどこに潜んでいるか、わからないしな」
 それがブルーコスモスの残党を刺していることは、シンにもわかっている。
「そちらに関してはアスラン達が何とかするんだろうが」
 さらに彼はこう付け加えた。
「そういや、朝から顔を見てないな、あいつの」
 それは、外に行っているからなのか。
「でも、大丈夫なんですか?」
 色々な意味を滲ませながらハイネを見つめる。
 先日、アークエンジェルから戻ってきたときのアスランは、確かに憑き物が落ちたような表情をしていた。あの日から、確かに、彼の言動は変わってきたような気がする。
 だからといって、安心していいとは思えないのだ。
「大丈夫だろう。ディアッカが同行しているそうだし」
 ご苦労なことだ、とハイネは笑う。
「まぁ、あいつはどちらにも知り合いがいるからな。そう言う点では信頼が厚いって事だろう」
 周囲の者達は苦労しているだろうが……と彼は続けた。
「ともかく、人のことをあれこれ言う前に、自分の言動を省みておけよ?」
 後で何か言われても反論できなくなるぞ、といわれて返す言葉を見つけられない。確かに、あれこれとやばいことを口にしていたような気がする。
 それに、とシンは心の中で付け加えた。
 キラやアークエンジェルに対するわだかまりは今はない。だが、それとオーブはやはり別なのだ。
 中でも、アスハに対するそれは消そうにも消せそうにない。
「……考えておきますよ」
 ため息混じりにこう言い返すのが精一杯だ。
「まぁ、時間はあるから、焦らなくてもいいだろうが……このままだと、もてないぞ?」
 女性に、と彼は笑う。
「そんなの、俺の勝手じゃないですか!」
 反射的にシンはこう叫び返してしまった。
「何だ? 気にしていたのか?」
 ハイネは悪びれた様子もなく言葉を口にする。
「お前は若いんだし、人妻に思いを寄せていても、未来はないんだぞ?」
 あの二人が別れるとは思えないからな、と彼は真顔で付け加えた。
「……俺は、確かにキラさんを好きだけどさ……でも、そう言う意味で好きなわけじゃねぇ!」
 第一、ラウにかなうとは思っていない。そもそも、あの二人の間に割り込めるはずがないとわかっていた。
 それは、あの二人が乗り越えてきたハードルを考えれば、それは当然だろう。
 ただ、キラが笑っていてくれる姿を見るだけで安心できるだけなのに……と心の中で呟きながら口を開く。
「キラさんは、俺の死んだ妹と同じ色の髪と瞳をしているんだよ」
 だから、キラに彼女を重ねているだけだ。そう付け加える。
「……それは、悪いことを言ったな」
 一瞬だけ、彼は申し訳なさそうな表情を見せた。だが、すぐにいつもの表情へと戻る。
「でも、シスコンも女性にもてない条件の一つだぞ」
「だから! それがあんたに何の関係があるんだよ」
 本当に、とシンは叫んでしまった。



BACKNEXT

 

最遊釈厄伝