「よく、来てくれたね」
 忙しいだろうに、と口にする彼の方が忙しいだろうに……とラウは心の中で呟く。相変わらず、他人にそのような自分を見せようとはしないのか、と続けた。
 それとも、キラ達に心配をかけまいとしてのことか。
 後者であれば、少しは見直してやろう、とさらに言葉を重ねる。
「僕はさほど……ギルさんの方がお忙しいのではありませんか?」
 何かを感じ取っていたのか。キラが心配そうに問いかけた。
「大西洋連合が、あれこれとごねてくれているからね。そう言った意味では忙しいかもしれないが……それは姫も同じではないかな?」
 カガリも忙しいだろう、と彼は言ってくる。
「彼女の場合、八つ当たりの対象がいるからね」
 小さな笑いと共にラウが言葉を返す。
「もっとも、彼の場合、自業自得だそうだが」
 カガリ曰く、と付け加える。
「いい加減、みんな、許して上げてもいいのに」
 戻ってきてくれただけ嬉しいのに、とキラが呟く。
「安心したから、甘えているだけだろうね」
 どうやら、しっかりと情報は耳にしているらしいギルバートが、キラを安心させるように言葉を口にする。
「個人的には、彼のような熟練の軍人が戻って来たのはうらやましいね」
 さらに彼はこう続けた。
「そう言うことで、お前が戻ってきてくれると嬉しいのだがね」
 わざとらしい表情を浮かべながら彼は視線を向けてくる。
「断る」
 ラウは即座にこういった。
「何故、私がキラから離れてお前にこき使われるとわかっているのに戻らねばならん?」
 それよりも、新しい人材を育てる方がいいだろう……と彼は続ける。
「経験なら、今回のことで十分積めただろうからな」
 違うのか、といえばギルバートはわざとらしいため息をついてみせた。
「本当につれない男だね、君は」
 人が頼んでいるのに、速攻で却下するとは……と彼はそのまま続ける。
「まぁ、いい。方法はいくらでもあるからね」
 例えば、と彼は目を細めた。
「君達の子供をコーディネイトするときとかね」
 今の状況では、地球上でのコーディネイトはまだ当分許可されないだろう。かといって、オーブの技術では心許ない。だから、とカガリに相談されているのだが……と彼は続ける。
「その時には、私が責任を持って指揮を執らせてもらう予定だしね」
 この言葉に、ラウはいやそうに顔をしかめた。
「まだ、その前にしなければいけないあれこれがあるというのにかね?」
 落ち着くまで考えられないだろう。そう彼は続ける。
「だが、周囲の者達は違う考えのようだよ?」
 特にカガリは、とギルバートは言い返してきた。
「流石に、キラ君の傍にだけくっついていると鬱陶しがられるだろう? その間に、アカデミーで特別講師をしてくれると嬉しいのだがね」
 もっとも、と彼は続ける。
「その前にしなければいけないことがあるが」
 言外にレイの存在を匂わせてきた。
「それに関しては、私も異存はないよ」
 彼には一日でも長く生きて欲しい。そう考えるのは自分も同じだ……とラウも頷く。
「詳しいことは、マルキオ様がこちらに着いてからもう一度、話し合うべきだろうね」
 彼はそう言って頷いて見せた。
「母には、既にメールで話をしています」
 だから、あるいはマルキオが何かを預かってきているかもしれない。キラもそう続ける。
「それは……君も忙しかっただろうに、申し訳ないね」
 驚きで一瞬目を見開いた後に、ギルバートはこういった。
「いえ。誰かさん達が僕の仕事を取り上げてくれましたので、時間だけはあったんです」
 こう言いながら、彼女は恨めしげな視線を向けてくる。
「君にゆっくりと休んでいて貰いたかっただけなのだがね」
 好意が伝わらなくて残念、とため息をついた。
「でも、僕の仕事ですから」
 それくらいは責任を持ってやりたかったのだ、とキラは言い返してくる。
「本当に君は真面目だね」
 そう言うところも好きだが、とラウは言い返す。その瞬間、キラが頬を赤らめた。
「仲がいいのは構わないが、あまり惚気ないでくれるかね?」
 見せつけられると、独り身の人間には辛い、とギルバートが口を挟んでくる。
「ならば、さっさと身を固めるんだな」
 出来るものなら、と思わず言い返してしまう。もちろん、ただの戯れ言だ。
「酷いね」
 それがわかっているのだろう。ギルバートもまたさらりと言い返してくる。ただ一人、キラだけが訳がわからないという表情を作っていた。



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