そんな状況だったからか。ラクス達は忙しい日々を送っていたらしい。
 だが、ある意味、当事者であるキラは暇をもてあましていた。
「……何で、僕が蚊帳の外なんだろう」
 ため息とともにこう呟く。
「まぁ、諦めるしかないわね」
 同じ立場であるはずのマリューは、艦長の任にあるからか。それなりに仕事がある。しかし、自分はと思いながらキラは彼女へと視線を向けた。
「そうですけど……僕の仕事まで取り上げることはないと思います」
 本来であれば自分がやらなければならない書類もラウ達が持っていってしまったではないか。キラはそう言い返す。
「いいのよ」
 しかし、マリューはこう言って微笑んだ。
「貴方の仕事ではなくて、彼らでも間に合う仕事なのだし……」
 それに、と彼女は続ける。
「締結式の会場に着けば、きっと、ゆっくりとしている時間はない、とみんな知っているはずだもの」
 特に、カガリとラクスのストッパーとして頑張ってもらわないといけないだろうから……と彼女は言う。
「そうよ。他にも、キラには地球軍のバカがバカをしないようにしてもらわないといけないんだし」
 かかし役はアスランやシン達に任せるとしても、とミリアリアまで口にした。
「……何、それ……」
 思わずキラはそう呟いてしまう。
「私たちは当然だと思っているけど、他の人たちにすれば、キラがそんなに強いなんて思えないらしいのよね」
 ディアッカの情報によれば、とミリアリアは笑いながら言った。
「だから、いざとなったらシミュレーションでもしてみせればいいんだわ」
 そうすれば、キラの実力を疑えるはずがないから……と彼女は続ける。
「……それ、無理」
 MS戦ならばともかく、白兵戦はお話にならないレベルだから……とキラは言い返す。生身で、といわれたら困る。
「大丈夫よ。ラウさんがいるし、ムウを身代わりにすればいいだけだし」
 あの三人も、キラの側にいるだろうし……とマリューが笑う。
「第一、オーブ軍がそれを許すはずがないでしょう?」
 カガリはもちろん、キラも彼らには人気なのだ。そんな狼藉を彼らが許すはずがない。
「ですよね。今のオーブ軍って、キラとカガリさんのファンクラブみたいなものだし」
 明るい口調でミリアリアがこんなことを言ってくれた。
「ミリィ……それ、違う」
「違わないわよ。言っちゃなんだけど、ラウさんは元ザフトの隊長で、最後までオーブと戦っていた相手だし……ムウさんも、ネオさんって名乗ってた頃にあれこれあったでしょう?」
 そんな二人に対して、よい印象を持っていないものも多い。ミリアリアのこの指摘は否定でいないとキラもわかってた。それでも彼らを受け入れてくれているのは、オーブの度量の広さだとも考えていた。
 そう言えば、二人は首を縦に振ってみせる。
「あの二人はもちろんステラ達も実力は確かだもの。それで納得した人たちは多いと思うわ」
 でも、とマリューは続けた。
「それ以前に、みんなが彼らを受け入れたのは貴方が彼らを信じていたからよ」
 もし、キラがそうしていなければ、いくらカガリの命令でもみんなが素直に受け入れたかどうかわからない。彼女はそうも言う。
「……まぁ、ラウさんは別の意味で恨みを買っているようだけど」
 くすり、とミリアリアが笑った。
「それは仕方がないわね」
 さらにマリューも頷いてみせる。
「どういう意味なんですか?」
 訳がわからない、とキラは言外に告げた。
「あのね、キラ。貴方とカガリさんは美人なの。そして、軍人には男性が多い、という事よ」
 男性だけではなくカガリだって、時々ラウを目の敵にしていただろう……とミリアリアは付け加える。
「……だって……」
 自分がラウに傍にいて欲しいと思ったのだ。誰が何と言おうと、と付け加える。
「わかっているわよ。独身男のやっかみでしょ」
 その位、ラウもわかっているはずだ。だから、彼は気にもしないではないか。
「ということだから、オーブのことは心配いらないし……ザフトもきっと大丈夫でしょ」
 そうなると、残っているバカは地球軍ということになるだろう。まだ、ブルーコスモスの残党がどこにいるかわからないのだし、とミリアリアは言った。
「だから、キラも一人でふらふらしないでね?」
 いいわね、と念を追われて、思わず首を縦に振ってしまう。
「まぁ、それに関してはみんなで気をつければいいわよ」
 マリューのこの言葉はフォローと受け止めていいのだろうか。本気で悩みたくなるキラだった。



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最遊釈厄伝