精緻な模様を織り込まれたベールは、時間の経過のためか、微かに色を変えている。逆に、それだからこそ、それが天然の素材で作られたものだとわかった。 それを何度も撫でながら、キラはため息を繰り返している。 「……あまりため息をつくと、幸せが逃げるそうだが?」 気持ちはわかるが、とラウは彼女に声をかけた。 「ラウさん……」 「それに、アスランの母君は君に使って欲しかったのだろう? その後で、返せばいい」 大切に使えば、さらに次の世代にも残せるだろう。彼は微笑みながらそう告げる。 「多少複雑な気はするが……彼がそれで納得できるなら、いいのではないかな?」 それに、といいながら、ラウは箱の中からベールを取り出す。そして、ふわりとキラにかぶせた。 「よく似合う」 こう言えば、彼女は頬を赤く染める。 「ラウさん!」 そのまま、焦ったようにこう叫んだ。 「本当のことだよ。ラクス嬢もカガリも、この姿を見れば『ダメだ』とは言えないだろうね」 流石に、と言い返す。 「とりあえず、根回し用に写真を撮って……カリダさん達に送っておくかね?」 彼女を味方につければ確実だ。この言葉に、キラは考え込むように首をかしげる。だが、すぐに頷いて見せた。 「では、ハウ嬢を呼んでこよう」 彼女も興味津々だったようだし、とラウは続ける。 「ついでにラミアス艦長とルーシェ嬢かな。あの男にプレッシャーをかけるには十分だろう」 そう付け加えれば、キラが複雑な表情を作った。 「まだごねているんですか?」 ムウさん、と彼女はため息をつく。 「アスランと違って無駄に年をくているからね。踏ん切りをつけるのに時間がかかるだけだ」 とりあえず、フォローしてやるとすれば……とラウは口にする。 「だから、周囲の者達が背中を蹴飛ばしてやることも必要ではないかな?」 外堀を埋める、という言葉もあることだし……と続けた。 「そうですね」 確かにそうかもしれない、とキラも頷いてみせる。 「ということで、ハウ嬢に声をかけてこよう」 キラはそのままで待っていなさい。こう言い残すと、ラウはきびすを返した。 そんな彼らの言動が功を奏したのか。 ムウがマリューにプロポーズをしたらしい。 「それはよかったですわ」 話を聞いたラクスがそう言って微笑む。 「そうだね」 キラも即座に頷き返した。 「それにしても、アスランの行動には驚きましたわ」 流石の彼も、ようやく認識できたのだろうか。それとも、とラクスは首をかしげる。 「レノア様の形見であれば、流石に捨てることは出来ませんし」 さらに彼女はとんでもないセリフを口にしてくれた。 「ラクス……冗談でも、それはやめて」 「わかっています。ですから、冗談ですわ」 第一、ベールに罪はない。まして、それほどまでに丁寧に作られたものを損なうようなことは罪だと言っていいだろう。彼女はそう言い返してくる。 「それにしてもラウさんには先を越されましたわ」 あそこまで早く根回しをするとは思っても見なかった。彼女はそう続ける。 「こうなったら、そのベールにふさわしいドレスを用意させて頂かなくてはいけませんわね」 きっぱりとした口調で彼女はそう言った。 「カガリと連絡を取って、あちらに到着する前にはデザインを決めてしまわないと……」 絶対にこれだけは譲れない。 「マリューさんの分も用意しなければいけませんから、忙しいですわね」 ブライダルメイドも集めないと。そんなことも彼女は口にする。 「……ラクス……」 「任せておいてください。最高の式にして見せますわ」 ひょっとして、彼女の中では調停式よりも自分たちの結婚式の方が上なのではないか。そんなことも考えてしまうキラだった。 |