ブリーフィングルームに足を踏み入れた瞬間、真っ先に飛び込んできたのはキラの隣に当然のように立っているラウの姿だ。
 次に、女性陣の邪魔者を見るような眼差し。
 それでも、キラの瞳にそんな感情が映し出されていないことにアスランはほっとする。
「どうしたの?」
 そんな彼の感情に気が付いているのか。キラがこう問いかけてきた。
「本国から、ようやくこれが届いたからな……月にいた頃の約束を果たそうと思っただけだ」
 きっと、近いうちに必要になるだろうし……と口にしながら、アスランは手にしていた箱を机の上に置いた。
「僕に?」
 不思議そうにキラが問いかけてくる。
「あぁ」
 頷き返せば、何かを考え込むかのような表情を作った。
「開けてもいいの?」
「もちろんだ」
 キラに見せるために持ってきたのだ。何よりも、他の者達が納得しないだろう、とアスランは続ける。その瞬間、キラとラウ以外の者達が苦笑を浮かべたり視線を彷徨わせ始めた。つまり、自分の言葉が正しかったと言うことではないか。
「でも、アスランが危ないものを持ってくるはずがないよね?」
 キラはそう言って笑う。
「それでもみんなのために確認をしなさい」
 アスランに対する認識は否定しないが、とラウは続けた。
「ラクス嬢とカガリにも報告をしないといけないのだろう、彼らは」
 さらに彼はこう言葉を重ねる。
「そこまでするんだ、あの二人は」
 ため息とともにキラは言葉を口にした。
 そのまま、そっと箱を自分の方へと引き寄せる。そして、慎重な手つきで蓋を開けた。
「……アスラン……」
 次の瞬間、彼女は驚いたように彼へ視線を向けてくる。
「母さんが約束していただろう? キラが結婚するときには自分のベールを貸すって」
 どう考えても、その日が近いようだから……とアスランは微笑む。
 結婚式には、新しいものと古いもの、そして蒼いものを身につけると幸せになれると聞いたし……とその表情のまま続けた。
「もっとも、却下されるかもしれないがな」
 あの二人に、と笑みに少しだけ苦いものをくわえる。
「それはないと思うけど」
 レノアのベールだから、とキラは言い返してきた。
「母さんも喜ぶと思うし……そうなったら、少なくともカガリは反対できないんじゃないかな?」
 そう彼女は続ける。
「それよりも、いいの?」
 自分が使って、と聞き返してきた。
「キラなら大切に使ってくれるだろう。俺はいつになるかわからないしな」
 そもそも、結婚できるかどうかもわからない……と心の中だけで付け加える。
「それに、俺は参列できるかわからないし」
 今の状況では、オーブに足を踏み入れられるかどうかもわからない、と苦笑と共に言葉を重ねた。それは仕方がないことだ、とは認識できている。
「……それはないと思うけど……でも、お仕事と重なる可能性はあるのか」
 軍人である以上、とキラは続けた。
「でも、来てもらえるなら、来て欲しいと思うよ、僕は」
 きっと、カリダも同じ事を言うはずだ……と彼女は微笑む。
「アスランは、僕の家族でしょ?」
 この言葉は嬉しい。しかし、同時にそれ以上の存在にはなれないのだとしっかりと突きつけられてしまった。
 それが悪いわけではない。自分だってキラではなくカガリを選んだのだし、付け加える。
 しかし、それでも彼女を守るのは自分の役目だと思っていたかった。
 だが、その認識は改めなければいけないのだろう。後、自分に出来るのは、潔く身を退くことだけだ、ともわかっている。
「……そうだな」
 ただ、家族ならばどれだけ遠くに離れていても、つながっていられるのではないか。それだけいいだろう。アスランはそう考えて笑った。



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