アスランを出迎えたのは、不機嫌そうな表情のイザークとディアッカだった。
「何故、お前達がここにいる?」
 ここがボルテールであればまだしも、と思いながら問いかける。
「そりゃ、お前が今までにバカをやって来たせいだろう」
 それに言葉を返してきたのはディアッカだ。
「ミリィとラクス嬢から救援要請が来たんだよ」
 ついでに、そちらの艦長からも……と彼は続ける。つまり、自分はまだ彼女たちに信頼されていない、ということか。それも無理はないか、とは思う。
「……ご苦労なことだな」
 わざわざ隊を放り出してまでこちらに来るとは、と付け加える。
「誰のせいだと思っている!」
 即座にイザークが怒鳴りつけてきた。
「イザーク落ち着け。お前も煽るな、アスラン」
 慌てて彼をディアッカがなだめている。
「今のキラはオーブ軍のトップなんだ。そのあたりの事情を考えろ」
 そのまま顔だけをこちらに向けて、彼はこういった。
「……わかっている」
 それでも、今でなければダメだったのだ。おそらく、締結式の後、自分はプラント本国へ強制的に戻らされるだろう。その後、オーブに行く機会を与えられるかどうかわからない。
 だから、今は何を言われても我慢しよう、とアスランは心の中で呟く。
「なら、いい。行くぞ」
 さっさと終わらせて、お前を連れ帰る。そう言うとイザークはきびすを返した。そしてそのまま歩き出す。
「そう言うこと。悪いけど、同席させて貰うな」
 ラクスがいないだけましだと思え、とディアッカは笑う。
「いたら、きっと、話をさせて貰えなかったぞ」
 さらにこう付け加える。
「そうだな」
 まぁ、それならばそれで構わなかった。ただ、キラにこれを渡したかっただけだから……と手にしていた箱を抱え直す。
「……何持ってきたんだ?」
 それに気付いたのだろう。ディアッカが問いかけてくる。
「母の形見だ」
 別に隠すことではない、とアスランはすぐに言葉を返す。
「ようやく手元に届いたからな」
 キラは忘れているかもしれない。だが、昔、約束したのだ……とアスランは続けた。
「つまり、キラにそれを渡したかった、ということか?」
 お前がここに来たのは、と彼は言い返してくる。
「否定はしない」
 今しかチャンスがないからな、と続けた。
「しかし、何なんだ、中身」
 興味津々、というように彼が問いかけてくる。
「今、わかる。危険物ではないから、安心しろ」
「……へぇへぇ。キラに一番最初に教えたいわけか」
 本当に、何なんだか……と彼は言う。
「お前には、多分、価値がないものだ」
 キラならば、わかってくれるはず。だから、本当は別の時に彼女に渡したかったが、とため息とともに付け加える。
「俺がバカだったからだ、ということは、わかっているつもりだがな」
 もっとも、それを認識できなかったのだから、あのころは正しいことをしていたと信じていたのだ。そのせいで、彼女たちの信頼を失ってしまったのだ、ということもわかっている。
「自覚したのなら、これから自分の信頼を回復させていいだけのことだ」
 プラントという国ではなく、キラ達に対してなら、さほどハードルは高くないのではないか。こう言ってきたのは、意外なことにイザークだった。
「もっとも、一人に対してすら成功していない人間がそこにはいるが」
 こう言いながら、彼はディアッカを見つめる。
「それこそ、誰のせいだと思っているんだよ」
 ため息混じりにディアッカがこう呟く。それだけで、状況が理解できたような気はするのは錯覚ではないだろう。
「自業自得だろうが」
 だが、イザークは自分の非を認めようとはしない。
 そんな彼にディアッカが深いため息をついていたのを見て、何故か妙に身につまされてしまった。



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