ラクスの話はキラが予想していた内容だったと言っていい。いや、彼女なら機会があれば絶対にそうするだろうとわかっていた、というべきか。
「……戻るんだプラントに」
 それでも、どこか寂しいと思うのは、この三年間、必ず彼女が傍にいてくれたから、だろうか。
「えぇ。オーブも大好きですが、わたくしの故郷はプラントですもの」
 それに、と彼女は笑みを深める。
「わたくしが向こうに戻れば、アスランを監視できますわ」
 アスランのことだ。平和が来ればまたよからぬことを考えかねない。それを早々に潰さなければ、別の意味で混乱が起きるのではないか。
「カガリもそれを心配していますわ」
 彼女もこれからが正念場だ。余計な雑音は入れたくない。そう言って彼女はさらに笑みを深めた。
「フラガ様がお戻りになりましたし、ステラ達も居てくださいます。何よりも、ラウさんが傍にいらっしゃいますもの。キラのことは心配いりませんでしょう?」
「うん。ステラがキラの傍にいるの」
 即座にステラがそう言って笑う。そんな彼女の頬にクリームが付いているのはご愛敬というものだろうか。
 それをキラは指でぬぐってやる。
「そうだね。少し寂しいけど、みんなが居てくれるなら大丈夫、かな?」
 ラクスはもう自分がすべき事を決めてしまったのだ。ならば、それを止める権利は自分にはない。だから、と思ってキラはそう言った。
「わたくしも、キラと離れるのは寂しいですわ」
 でも、アスランを監視する方が重要だから……と彼女は笑みに少しだけ苦いものを含めた。
「それに、アスラン達があてにならない以上、わたくしがすべきだ、と思いましたの」
 この平和を少しでも長く保つために、とラクスは言う。
「……ラクス……」
 確かに、自分たちの中でプラントに行ってそれが出来るのは彼女だけだ。しかし、彼女にだけその重荷を背負わせていいものか、と悩む。
「あぁ、そのような表情をなさらないでくださいませ。わたくしは元々の立場に戻るだけですわ」
 そのために自分は存在していたのだから、と朗らかな口調で彼女は言う。
「それに、オーブにキラとカガリが居るから、わたくしは安心して戻れるのです」
 セイランが今でものさばっていたら、安心など出来ない。プラントにはギルバートが居るのだから、自分が影からオーブを掌握できるように動いただろう。
「……ラクス……君が言うと冗談に聞こえない」
 というよりも、その気になれば間違いなく実行に移すだろう……とキラは付け加える。
「冗談に決まっておりますわ」
 即座に彼女はこう言い返してきた。
「まぁ、それはおいておいて……キラは今までに十分な重荷を担ってくださいました。ですから、次はわたくしたちの番だ、と言うだけです」
 キラはそこで見ていてくれるだけでいい。そう彼女は付け加えた。
「いわば、キラはお守りのようなものですわ」
 そう言われても、どこか釈然としない。
「キラが居てくださるから、わたくしも頑張れる。そう言うことです」
 しかし、ラクスの微笑みを見ているうちにどうでもいいような気がしてくるのはどうしてなのだろう。本当に、彼女の微笑みは最強の武器かもしれない。そう思わずには居られないな、と思う。
「あら」
 その時だ。不意に彼女が小さな呟きを漏らした。
「どうかしたの?」
 即座にこう問いかける。
「フラガ様ですわ」
 ずいぶんとお疲れのようですけれど、と彼女は続けた。
「ネオ?」
 ムウ=ネオという認識がようやく出来たらしいステラがすぐに反応をする。その表情は子犬が飼い主を捜しているのとよく似ているような気がする。
「本当。ネオがいる」
 言葉とともに彼女は腰を浮かせた。
「ネオ!」
 そのまま、彼女は彼の名を呼ぶ。そうすれば彼が視線を向けてきた。
「本当だ。ずいぶんと表情がさえないようだけど……」
 こう呟いた瞬間、キラはあることを思いだしてしまう。
「ひょっとして、バルトフェルド隊長とラウさんにさんざん何か言われた?」
 それも、彼が言われたくないようなことを……とキラは呟く。
「まぁ、それは仕方がありませんわね」
 ムウがもっと早く記憶を取り戻してくれていたならば、自分たちはさらによい方法を選べたかもしれない。何よりも、マリューのことがあるから、とラクスも頷く。
「とりあえず、呼んできてくださいませ」
 彼女はそのままステラにこう頼む。
「うん! ネオ!!」
 言葉とともに彼女はかけだしていく。
「ほどほどにね、ラクス」
 思わずこう言わずにいられないキラだった。



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