アークエンジェルの無事を確認して、レイはほっと安堵のため息をつく。
「よかった」
 少なくとも、あの二人には死んで欲しくない。せっかく、心の平穏と幸せを手に入れたのだから……と心の中で付け加えた。
「レイ! キラさん達が無事って、本当か?」
 その時だ。シンがこう言いながら近づいてくる。
「本当だ。お前だってフリーダムが無事だったのは確認していただろう?」
 だから、キラの無事だけはわかっていた。ただ、もう一人の方がわからなかったからこっそりとメールを送らせてもらっただけだ。レイは心の中でそう付け加える。
「わかってたけどさ。中でケガしている可能性だってあったし……キラさん、女性だし」
 ルナマリアだって、ケガをして傷が残るようなことになったらショックだと思うし……とシンが言い返してきた。
「まぁ、それはそうだな」
 確かに、キラが傷つくのはいやだ。
 しかし、ラウが傍にいて彼女が傷つくはずがない……と言う確信がある。だからこそ、彼の無事を確認したかったのだ。
 だが、そのことをシンには教えない。
 彼に言えば、絶対に『メールアドレスを教えろ』と言い出すのは目に見えている。
 しかし、これは、自分だけの特権だ……と思うのだ。
「とりあえず、無事でよかった。後は、さっさと残党を捕まえるだけだよな」
 それに関しては、ザフトだけでいいような気もするが、とシンは言う。
「そういうわけにはいかないだろうな。やはり、オーブにも動いて貰わないと」
 だが、指揮官であるキラが出てくる必要はない。というよりも、個人的にはもう、彼女には戦って欲しくないような気がする。
 それもこれも、全てはブルーコスモスの出方次第だが、とレイは心の中で付け加えた。
「……そう言えば、アスランはどうしているんだ?」
 ふっと彼の存在を思い出して呟く。
「さぁ。ハイネと一緒に艦長の所に行ったのは確認したけど」
 何をしているんだろうな、とシンは言い返してくる。
「ハイネと一緒か。なら、心配はいらないな」
 勝手にアークエンジェルに押しかけたりはしないだろう。それならば、放っておいても大丈夫か。そんなことを考えていた。

 着替えてブリッジにあがると、カガリからの通信が入っていた。
『とりあえず、戦後処理についてはデュランダル議長と話し合うことになった』
 できればキラかラクスに同席にして欲しいところだが、と彼女は続ける。現状では、ブルーコスモスの残党を警戒する方が重要だろう。だから、無理は言わない。
『まぁ、適当に通信を入れる可能性は否定しないがな』
 そう言って彼女は笑う。
「……僕には何も出来ないよ?」
 政治的なことは何もわからないから、とキラは言い返す。
『わかっている。それに関してはラクスを巻き込むつもりだ』
 キラには別の役目がある、と彼女は笑う。
「ブルーコスモスの残党たたき?」
 首をかしげながら、キラはこう問いかける。
『じゃない。私の癒しだ!』
 ブルーコスモスの残党たたきにわざわざ最高司令官がでていくことはないだろう、と彼女は言った。
「でも、カガリ……」
 自分がやらなくていいのか。キラは言外に聞き返す。
『大丈夫だ。それこそ、そう言うことは他の連中の方がなれているからな』
 それよりも戻ってきてみんなを安心させろ、とカガリは笑う。
『あぁ、それと』
 微妙に笑みの意味を変えながら彼女は言葉を重ねた。
『あいつは逃がすなよ? 心配かけたお仕置きはしてやろう』
 まったく……思い出すなら、さっさと思い出せ。そう付け加えられて、彼女が誰のことを言っているのかわかってしまった。
「手加減してね」
 ため息とともにキラはそう言い返す。
「また、ムウさんの記憶が失われたら、恨まれるなんてものじゃないよ?」
 特に、これからあれこれと後始末をしてもらわないといけないんだし……と続ける。その中には、もちろん、マリューとのことも含まれていた。
『わかっている。責任を持ってあれこれとやってもらおうじゃないか』
 書類整理も含めて、カガリは言い切る。
『楽しみだな、本当に』
 なんか、記憶が戻らない方が彼のためだったのではないか。ふっとそんなことを考えてしまうキラだった。



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