ジプリールの身柄確保の報告は即座にギルバートの元にも伝えられた。
「そうか。では、後は私たちの仕事だね」
 軍ではなく政治の、と彼は続ける。
「大至急、オーブのアスハ代表に連絡を取ってくれるかな?」
 彼は傍にいた秘書にそう命じた。
「かしこまりました」
 言葉とともに秘書は離れていく。
「……それさえ終われば、時間が取れるようになるかな?」
 レイの治療のスケジュールも考えなければいけない。そして、キラとラウのこともだ。
「それに関しても、姫と話し合うべきだろうね」
 内密に、と彼は呟く。
「しかし、早々に議長の座を押しつけられる人材を捜さないと」
 ゆっくりと研究にも手をつけられない。キラ達の協力が得られるならば、人工子宮の研究も飛躍的に進むのではないか。
 そうなれば、きっと、プラントから婚姻統制は消えるに決まっている。
 それでなくても、第二世代以降とナチュラルのカップルであれば次世代を生み出せる可能性は高いらしい。
 ブルーコスモスがいなくなった以上、大西洋連合のナチュラルも自分たちコーディネイターへの偏見を捨ててくれるかもしれない。そうなれば、さらに種族を超えたカップルが増えるのではないか。
 その者達が自分たちの子供をコーディネイトしてくれるなら当面の人口問題も解決するのではないか。
 どちらにしても、今しばらく時間的猶予が与えられるいうのは事実だ。
「……どちらにしろ、子供達をこれ以上戦わせるのは忍びないからね」
 それよりも別の未来を見て欲しい。そう考える。
「さて……姫も同じ気持ちだといいのだが」
 そう呟いたときだ。
「……歌姫に戻ってきて頂こうか」
 あることを思いついてギルバートは笑みを浮かべる。
「あの方であれば、私以上に向いておられるだろうからね」
 議長の座が、と付け加えた。
「まぁ、それもあの方次第か」
 どちらにしても話をしなければいけないだろう。
「さて……いつ、その時間が取れるか」
 一刻でも早く時間を確保できればいいのだが。そう呟く。できれば、カガリと一緒に彼女に会いたいとも思う。
「姫に提案してみよう」
 それが一番話が早いような気がする。そう言うと同時に、彼は小さく微笑んだ。

 アークエンジェルのデッキ内は別の意味で大騒ぎだった。誰もがムウの帰還を喜んでいるのだ。
「……ネオなのに、ネオじゃないの?」
 しかし、ステラ達三人は違った。不安そうにこう問いかけてくる。
「ネオさんはネオさんだよ。ただ、記憶が戻っただけ」
 自分たちの知っている《ムウ・ラ・フラガ》の、と付け加えた。
「でも、君達のことも忘れてないから……だから、少しだけあの人をみんなに貸して上げて?」
 ね、と続ける。
「ステラ達のこと、いらないって言わない?」
 ネオは、と彼女はキラの手を握りしめながらこう言ってきた。
「大丈夫だよ」
 だから、安心して……と続ける。
「それに、これからはきっと、マリューさんもステラ達の傍にいてくれるよ」
 マリューのことも好きでしょう? と聞き返せば彼女は小さく頷いて見せた。
「……だから、安心して?」
 ね、と言えばもう一度首を縦に振ってみせる。
「とりあえず、声をかけてみなさい」
 そうすれば、彼がどう思っているのかわかるかもしれないよ……とラウが提案をしてきた。
「ラウさん」
 そんなことを言っても、とキラは反論するように彼の名を呼ぶ。
「大丈夫だよ。君達の声ならば聞こえるはずだからね」
 だから試してみればいい。そう付け加えられて、真っ先に行動を開始したのはアウルだ。
「ネオ! 俺たちは戻っていいのか?」
 この言葉に、彼はすぐに視線を向けてくる。
「着替えたら、先に戻ってろ。すぐに行くから」
 そして、こういった。
「……本当だ」
 感心したようにスティングが呟く。
「安心したなら、指示に従いなさい。それと、キラも着替えて休むといい。明日から、また忙しくなるだろうしね」
 あれのことは、適当に対処するから……と彼は笑う。それに、キラも頷いて見せた。



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