アークエンジェルが危ない。 そう判断した瞬間、キラはフリーダムを反転させようとしていた。 『やめろ、キラ!』 それをバルトフェルドの声が阻む。 「ですが!」 とっさに反論の言葉を口にする。 『今からでは間に合わないよ、キラ』 悔しげな口調でラウが言葉を投げかけてきた。 「……そんな……」 でも、とキラが呟く。 『ネオ!』 『無茶だ!!』 その声に被さるようにステラ達の悲鳴が聞こえてきた。何が、と思って視線を向ければ、ネオが乗り込んでいるムラサメがアークエンジェルのブリッジを守るように立ちふさがっている。 「ムウさん!」 その光景にキラはいやな既視感を覚えた。 三年前、彼を失ったときも同じような状況だったはずだ。 その時の記憶がネオにあるとは思えない。なのに、何故、彼は同じような選択をするのだろう。 そして、自分たちはまた、彼を失うのだろうか。 「ムウさん! どうして……」 キラは呆然と呟く。 『ムウ!』 自分以上の驚愕を覚えていてのは、もちろんマリューだ。ラウと戦っていた自分と違って、彼女は前回、ストライクが破壊される光景を目の当たりにしていた。それと同じ光景を今見て、いったい、どのような気持ちになっているのだろう。 「……ともかく、主砲だけでも潰さないと……」 でなければ、彼を助けられない。それどころか、また同じ事が繰り返される。 だから、とビームライフルの照準を合わせた。そのまま引き金を引く。 ねらいは外すことなく艦の主砲を撃ち抜いた。 いや、それだけではない。 別の方向から敵艦の推進部分を狙ってビームが飛んできた。 それが誰が撃ったものかはわからない。だが、これで敵の動きが封じられたのは事実だ。 「これ以上、無駄な抵抗はやめてください! 貴艦には、既に反撃の手段はないはずです」 条約に従い、乗員の命は保証する。もっとも、将官以上にはきちんと裁判を受けてもらうが……とキラは続けた。 しかし、彼らは抵抗をやめようとはしない。 主砲は潰されたが、まだミサイルは発射できる。そういうのように発射口を開く。 「何故、抵抗をするんだ!」 勝ち目はないとわかっているだろうに、とキラは叫ぶ。 『キラ、落ち着きなさい』 そんな彼女をなだめようとラウが声をかけてくる。 『ジプリールがいるからだろう』 そして、その後にもう一つの声が続いた。 『アズラエルも最後まで往生際が悪かったからな』 しかし、その後に続いたのは今の彼が言うはずもないセリフだ。 『まさか……』 ムウ? とマリューが呟いている。 『前に言っただろう? 俺は不可能を可能にする男だって』 それよりも、まだ戦闘中だぞ……と彼は続けた。 『そう言うお前の言動が一番の問題なのではないかね?』 あきれたようにラウが言う。 『否定は出来ないな』 彼は苦笑を滲ませながらこう言い返す。 『スティング! 構わないから、飛んできたミサイルは全部たたき落とせ。アウルとステラもいいな?』 その後に続けられた言葉から、彼が彼らのことも忘れていないことがわかる。 ならば、何も心配はいらない。後でゆっくりと確認すればいい。そう判断して、キラは改めて意識を戻す。 そのまま、再度降伏勧告を送った。 小一時間も経たないうちに地球軍が降伏信号があがった。どうやら、ジプリールを艦長が排除しての判断らしい。 『責任は全て自分にある。だから、部下達には寛大な処置をお願いしたい』 彼はそう言ってくる。 「わかっています。貴方の判断に感謝します」 そんな彼に、キラはこう言い返した。 |