それに気が付いたのは本当に僥倖だった。でなければ、ユニウスセブンの悲劇が繰り返されていたかもしれない。
「月の裏側に高エネルギー反応が確認できました」
 焦ったような声にイザークが眉をしかめた。
「正確な位置を報告しろ」
 即座に、と彼は続ける。
「それと、同じデーターをアークエンジェルに送れ」
 オーブ軍のパトロールがそちらにいるかもしれない。そうすれば、何が発信源なのか確認できるはずだ。彼はそうも続けた。
「了解しました」
 指示された部下が即座に行動を開始する。
 それを確認して、ディアッカはデッキへと向かうためにきびすを返した。
「ディアッカ?」
「位置が特定できたら、確認に行ってくるわ」
 その方が早いだろう、と笑いながらエレベーターの中へと体を滑り込ませる。
「それなら、お前が行く必要はないだろう?」
 他の誰かでも、とイザークが言い返してきた。
「アークエンジェルに連絡を取れば、間違いなくオーブ軍からも誰か出てくるからさ。俺の方がいいだろう?」
 顔見知りの可能性が高いし、と笑う。
「それに、お前が動くわけにじゃいかないだろうが」
 隊長なんだから、と付け加えれば、イザークはいやそうな表情を作る。彼としてもブリッジで指示を出しているよりは前線に出ている方が気が楽なのだろう。しかし、自分の立場を考えれば迂闊な行動は取れないと言うところではないか。
「ちゃんと報告を入れろ」
 仕方がないというような表情でイザークがこう言ってくる。
「了解」
 言葉とともにドアを閉めた。

 目的地は直ぐにわかった。そして、地球軍が何をしようとしているのかも、だ。
 しかし、何で彼女がここにいるのだろうか。
「キラ?」
 ディアッカは思わず回線越しに呼びかけてしまう。
『よかった。そっちの指揮官はディアッカなんだ』
 ヘルメットの中でにっこりと微笑んでいる彼女が、モニターに映し出された。
「何で、お前……」
『フリーダムが一番確実かなって、思って』
 ミーティアも持ってきたから、と彼女は続けた。
 確かに、目標が廃棄コロニーである以上、破壊をするのにはこれ以上ない組み合わせだ。しかし、彼女はオーブの最高司令官ではなかったか、と思う。
『アスランがいれば、ジャスティスの後継機を押しつけたのだがね。残念だが、彼は今、ザフトの一員だ』
 そして、この場にいない……とその後にラウの声が続く。つまり、彼女の判断を他の者達も認めていると言うことか。
『さっさと破壊しないと、プラントに被害が出るでしょう?』
 さらにこう付け加えられる。つまり、それが彼女の行動の一番の理由だと言うことではないか。
「悪い」
 つい、ディアッカはこう言ってしまう。
『気にしないで。それよりも、僕たちはどうすればいい?』
 そう言われて、ディアッカは苦笑を浮かべる。
「とりあえず、周りの連中は俺たちが引き受ける。キラはあのでか物を頼んで構わないな?」
 ミーティアに付いているビームソードなら一発だろう? とその表情のまま付け加えた。
『それは構わないけど……今のままだと爆発しない?』
 先に角度を変えた方がよくないか、とキラは言い返してくる。
「それも、俺たちが何とかするって。ムラサメ隊も手伝ってくれるだろう?」
 指揮官がラウであれば、適切なフォローをしてくれそうだ。もっとも、色々な意味で後が怖いが……とこっそりと心の中で付け加える。
『それに関して、反対をする理由はないからね。では、我々があれの護衛を惹きつけよう』
 その間にあれの向きを変えてしまえ、とラウが言い返してきた。その声音には、自分たちをからかう響きはない。
「じゃ、そう言うことで決まりだな」
 言葉とともに、真っ先にブレイズザクファントムを目標へと向けて発進させた。



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