予想通りと言うべきか。キラの斜め後ろにいる人物が誰か。その正体に気が付いた瞬間、イザークは見事に生ける彫刻になった。
 コーディネイターの中でも秀麗といえる容姿の彼があんぐりと口を開けて凍り付いている様は確かに笑えるかもしれない。しかし、とキラはため息をつく。
「ディアッカ……本当に何も教えていなかったの?」
 そのまま、あきれたような口調で昔なじみの相手へと声をかける。
「いや……時間がなくてさ……」
 噂の一つも耳に入っていなかったとは思わなかったし……と彼は続けた。それに、キラはあきれたようなため息をついてしまう。
「イザークさん?」
 だが、直ぐに表情を引き締めると視線を移動した。
「……見苦しいところを見せて申し訳ない」
 そして、キラに向かって頭を下げてくる。
「いえ、気にしないでください。だいたい、想像が付いていましたから」
 事前に確認してきた人もいますし、と言いながらキラは視線をディアッカに向けた。
「……ほぉ」
 その視線を追いかけたイザークが意味ありげな表情で呟きを漏らす。
「ま、まぁ……とりあえずは、打ち合わせが優先だろう?」
 そう言うことは、とディアッカは苦笑と共に口にする。
「そうだな。お前を締め上げるのはその後でいいか」
 色々と情報を持っていそうだからな、とイザークも即座に頷いて見せた。
「なるほど。それなりに成長しているようだね」
 そんな彼の反応にラウが満足そうに頷く。
「もっとも、それだけではダメだろうがね」
 そう付け加えた彼に、イザークが小さく肩を跳ね上げる。どうやら、彼らにとっては――ラウが何をしたのかを知っていたとしても――今でも特別な存在らしい。
「……ラウさん……」
 ここで下手に萎縮されては意味がない。そのせいでこちらに有利な状況になった、と言われたら後々厄介ではないか。そう考えて、キラは彼に呼びかけた。
「別にいじめているつもりはないのだがね」
 素直な感想を口にしただけだが、と彼はしれっとした口調で付け加える。これは、絶対にわざとだ、とキラは思う。
「……とりあえず、移動しましょう」
 これ以上人前で彼らに百面相を披露してもらうよりは早々に隔離した方がいいような気がする。そう思って、こう提案をした。
「あぁ。それがいいだろうな」
 色々な意味で、とバルトフェルドも頷いてみせる。
「お前達も構わないだろう?」
 さらに彼らにも同意を求めた。
「はい」
 即座に同意をしたということは、彼らとしても何か考えがあるのだろう。それが厄介なことでなければいいのだが、と心の中で呟いた。それでも、ディアッカの反応は読めるからまだましかもしれない。
「では、こちらに」
 先に立ってキラは歩き出す。
「……ところで、キラ」
 ふっと思い出した、というようにディアッカが声をかけてきた。その瞬間、オーブ軍から派遣されてきたものは顔をしかめる。だが、彼の顔を覚えているのだろう。あえて口を挟んでは来ない。
「さっき貰ったクルー一覧に、あの人の名前がなかったような気がするんだが……」
 バルトフェルド達と同じ立場なのかと彼は続ける。
「え? ちゃんと載ってるよ?」
 ラウは、とキラは言い返した。
「マジ?」
 言葉とともに彼は端末を取り出す。どうやら、その中に必要なデーターが収められているらしい。
「クルーゼで探しても出てこないよ。今、ラウさんはそう名乗ってないから」
 しかし、この後に続く言葉を口にするのは気恥ずかしい、とキラは心の中で付け加えた。
「じゃ、なんて名乗ってんだ?」
 当然のようにこう聞き返されてしまう。
「……僕と同じ名字」
 小声でそう告げた。
「へっ?」
 今、なんて言った? とディアッカは口にする。
「だから、僕と同じ名字!」
 わかっていてやっているのではないだろうか。そう思いながらキラはこう言い返す。
「何で?」
 他の名字でもよかっただろう、と彼は口にした。
「それは、結婚しているからだね」
 状況が飲み込めたのだろう。ラウが笑いながら口を挟んでくる。
「結婚って、誰と誰?」
 しかし、直ぐには状況を飲み込めないのか。それとも、信じられないのか。彼は呆然とした表情で疑問を口にした。
「キラと私がだが?」
 何か問題でも? と言うラウは、絶対にわかっていてやっている。
「嘘だろう!」
 ようやく状況を飲み込めたらしいディアッカがそう叫ぶ。
「隊長と、ストライクが結婚……」
 それだけではない。イザークも呆然とした口調で呟いている。
「ストライクではないよ。人の名前は正確に言いなさい。失礼だろう?」
 ラウのこのセリフが、むなしく周囲に響いていた。



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