「キラ」
 ふっと何かを思い出した、というようにラクスが声をかけてくる。
「通信機をお借りしても構いませんわね?」
「当然だよ。でも、どこに連絡するの?」
 確認を求めてくる、ということはオーブではないのだろう。そう考えて聞き返す。
「エターナルと合流した方がよろしいかと思いまして」
 ついでに、追加装備を持ってきて貰おう。そう言って彼女は微笑む。
「そうかもしれないけど……そうなるとラクスとバルトフェルド隊長はそっちに行くんだよね?」
 そうなると、少し不安かも……とキラは呟く。
「そいつがいるだろう? それに艦が別れると言っても、ほぼ同行するんだ。連絡は直ぐに取れる」
 第一、泣きついてやらないと、ふてくされる人間がそこにいるだろう? と意味ありげな視線をラウへと向けた。
「……別に気にしていませんよ。あなたの方が年上なのは事実ですから」
 自分よりも皆の信頼を得ているのも事実だ。ラウはさりげなくそう付け加える。
「ラウさん……」
「だからといって、君が私言葉に耳を貸してくれないわけではないからね。構わないよ」
 年齢だけは自分でもどうしようもないのだから、と付け加える彼の言葉の中に、何かが隠されているような気がするのは錯覚だろうか。
「何よりも、現在、受け入れて貰っていることは感謝しないといけないだろうしね」
 鬱憤は、かつての部下ではらそう……と笑う彼に、どう反応すればいいのだろうか。
「お前もずいぶん人間らしくなったもんだ」
 本気で感心しているとわかる声音でバルトフェルドが言葉を口にした。
「まぁ、クルーに矛先が向かないなら構わないが……ほどほどにしておけよ?」
 敵は増やすな、と彼は付け加える。
「わかっていますよ。キラの不利になると困りますからね」
 そう言う理由は違うのではないか。そう思わずにいられない。だが、ラウはあくまで真面目な声音でそう言っている。
 それに何か言うべきなのだろうか、とキラが悩んだときだ。
「なんか……いろいろとありそうだな、この艦のクルーは」
 しみじみとした口調でネオがこう言ってきた。
「だから、俺たちも受け入れてもらえたのかもしれないな」
 苦笑と共に言われて、迂闊な言葉を口に出せなくなってしまう。
「どちらにしても、こちらの体勢を早々に整えないとな」
 その代わりというように、バルトフェルドがこういった。
「大丈夫ですわ、キラ。キラの側にはラウさんとラミアス艦長がいらっしゃいます。だから、わたくしたちは安心してエターナルに移動できるのですわ」
 問題があるとすれば、アスランだけだ。しかし、彼にしてもあの様子なら大丈夫ではないか。ラクスはそう言って微笑む。
「そうだな。俺たちが駆けつけるまでの間なら、何とでも出来るだろう?」
 ラウだけではなくネオ達もいれば、とバルトフェルドも頷く。
「そう言う問題ですか?」
 思わずこう言ってしまう。
「そう言う問題ですわ」
 それに、彼女はそう言い返してきた。
「だからこそ、アマギ大尉はこちらではなくクサナギにいらっしゃるのですし」
 さらにこう言われて、納得しないわけにはいかない。
「使えるものは親でも使え、というではありませんか。ですから、わたくしもエターナルを使うのですわ」
 ラクスはさらに笑みを深める。
「うん、わかった」
「大丈夫です。わたくしたちはあなた以外の人間の指示には従いませんもの」
 だから、ザフトに加わることはない。そう彼女は付け加えた。
「あちらからわたくしたちに加わりたいとおっしゃりたいのであれば、拒みませんけど」
 やはり、ラクスはラクスだ。そう思わずに言われないセリフを口にしてくれる。
「本当に、ラクスらしいね」
「ほめ言葉として受け取っておきますわ」
 笑みを深めると、彼女はそう言った。こう言うところがかなわない理由なのだろうか。それとも、と思いながらキラは首をかしげてしまった。



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