「……大きいですね」
 自分たちを警戒しているのか――それとも歓迎しているのか――ゆっくりと近づいてくる船影を見ながら、キラはこう呟く。
「空母だからな」
 言葉を返してきたのはバルトフェルドだ。おそらくザフトに残っているダコスタ達からの情報だろう。
「ゴンドワナ級だね」
 自分がいたときに企画はあがっていたが、開発が終了していたとは思わなかった。ラウもそう言って頷く。
 その時だ。
「はぁ? 何で、あんたが連絡入れてくるのよ!」
 ミリアリアのあきれた声がブリッジ内に響き渡った。
「確かに、そうだけど……それが何で、あんたに関係あるの?」
 しかも、苛立ちの中に気安さが見え隠れしている。
「ミリィ」
 彼女がこんな反応を見せる相手といえば限定されているが、と思いながらキラは問いかけた。
「ディアッカよ、ディアッカ」
 即座に彼女は答えをくれる。
「……やっぱり……」
 苦笑と共にキラは言い返す。
「で、なんだって?」
 久々に自分も顔を見たいな、と言外に付け加えながらさらに付け加えた。
「……まぁ、向こうも顔を見たいそうよ。みんなの」
 最後の一言にこめられた微妙なニュアンスにキラは気付く。
「構わないのではないかな?」
 その理由の一人であるラウがこういった。さらに彼はさりげなくネオへと視線を向ける。ミリアリアがその意図をわからないはずがない。
「そうね。久々に顔を見たいわ」
 構わないでしょう? とマリューがキラに問いかけてくる。
「そうですね。モニターに出してもらえますか?」
 微笑みながら頷けば、ミリアリアは「わかったわ」と言葉を返してきた。
「そう言うことだから、感謝しなさいね」
 キラに、と彼女はさらに付け加える。
『そんな、ミリィ!』
 俺とお前の仲だろう、と焦ったように言うディアッカの顔がモニターに大写しになった。
「あらあら」
 ラクスが苦笑と共に声を漏らす。その瞬間、彼も今どうなっているのかわかったのだろう。複雑な表情を作った。
「元気そうで何よりだね、ディアッカ」
 とりあえず、とキラは声をかける。
『お前もな、キラ』
 どこかほっとしたような表情で彼は言い返してきた。
「で、どうしたの?」
 いきなり連絡してくるなんて、とキラは問いかける。
『イザークがそっちに通信を入れるまえに色々と確認しておいた方がいいかな、って、思っただけなんだが……』
 そう言いながら、彼は視線を動かす。その先には、状況を楽しんでいるラウと、微妙に状況が飲み込めないネオがいた。というよりも、いつの間にかラウが彼の傍に移動していた、といった方が正しいのか。
 きっと、それはディアッカの反応を見るために決まっている。キラは心の中でそう呟く。
『あのさ、キラ……悪いけど、うちの元上司って、どっち?』
 似たような顔が二つあるが、とディアッカは問いかけてきた。ここで《ムウ》の名前を出さないのには、彼なりの配慮なのだろうか。
『一応、確認しておかないと……色々と、まずいことになりそうなんだよ』
 こっちも一枚岩じゃないから、と彼は続ける。
「……だから、お前は敵を作りすぎなんだ」
 理由がわかったのだろう。あきれたようにバルトフェルドが言う。
「生き残る予定がなかったものでね。自分が死んだ後のことなど、考えていなかっただけですよ」
 もっとも、今は生き残らなければならない理由があるが……と彼は付け加えた。
「ということだよ、ディアッカ」
 これでわからないはずはないだろう。そう思いながらキラは苦笑を向ける。
『十分わかった……』
 って言うか、本当に、そこにいるのは元上司ラウ・ル・クルーゼか? と彼はぼやく。
「とりあえず、僕はその人を拾ってきたつもりだけど?」
 何か、問題でも? とキラは問いかける。
『いや、記憶とのギャップに驚いただけだって』
 キラ達が納得しているなら問題はない。そう彼は言い返す。
『それともう一つ』
「何?」
『オーブ軍の責任者って、誰?』
 彼がこういった瞬間、周囲の者の視線がキラへと集中する。
『あぁ、わかった。じゃ、後で正式に連絡入れるわ』
 ディアッカは苦笑と共に頷く。
『イザークには内緒にしておいた方がいいんですよね?』
 さらに彼はこう付け加える。それにラウがどのような表情を作ったのか。申し訳ないが、キラは確認する気力がなかった。



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