ザフトもまた、主力を宇宙へとあげる準備をしていた。 「おそらく、オーブも動くだろうね」 彼らにしてみれば、それ以外に自国の潔白を証明できる方法がない。もちろん、全てはアスハを追いだして実権を握っていたセイランのせいだ、ということは誰もが知っている。それでも、オーブという国として行われたことである以上、責任を取らなければいけないのだ。 そう考えれば、カガリは動けない。 「さて、指揮官は誰だろうね」 オーブ軍の、とギルバートは呟く。 「できれば、話が出来る相手がいいのだが」 いざとなれば、カガリ経由で物事を決めることになるだろう。しかし、それではタイムラグが出来る。それはまずいのではないか。 「姫も、それについては考えているだろうが」 だが、どこまであてにしていいものか。 「彼らが傍にいるから、心配はいらない……と思いたいね」 カガリも、彼らの言葉には耳を貸すだろう。だから、と思う。 「ここで徹底的に芽を潰しておかないと、今後のためにならない」 自分も引退をすることは出来ないだろう、と胸の中だけで付け加える。 この戦いが終わったなら、議長の座を押しつけるにふさわしい相手に全てを譲って、本来の研究三昧の生活に戻りたい。 何よりも、真っ先に行わなければいけないことがある。 せっかく、彼女たちが未来のための道しるべを与えてくれたのだ。それを大切な養い子のために使わないわけにはいかないだろう。 「こんなことを考えられる余裕が出来てきたのも、この長い戦いの終わりが見えてきたからかもしれないね」 全ての暗部に光を当て、白日の下にさらしたことで、と彼は続けた。 「議長」 秘書がそっと歩み寄ってくる。 「カグヤからオーブ軍が宇宙にあがったそうです」 予想よりも行動が早い。それだけ、あの国が今回のことを重く思っていると言うことだろう。 「どの船があがったか、わかるかね?」 とりあえず、彼らがいるかどうか。それを確認したい。そう思って、こう問いかける。 「アークエンジェルとクサナギは確認できました。後、輸送艦が二隻、ですが……こちらは同型艦が多数ありますので」 判別が付かなかった、と彼は言い返してくる。 「いや、構わないよ。アークエンジェルがいるなら、こちらとしても心強いね」 そう言ってギルバートは頷く。 「こちらも、直ぐに行動をしないといけないね」 あちらと連携を取れればいいのだが、と続ける。 「確かに」 即座に、秘書は同意の言葉を口にした。 「直ぐに軍に指示を出します」 「頼むよ。あぁ、あちらとの交渉役はミネルバに任せよう。ヴィステンブルグも彼らに同行出来るように取りはからってくれたまえ」 「かしこまりました」 言葉とともに彼は直ぐにきびすを返す。そして、そのまま部屋を出て行った。 「これが終われば、また彼らとゆっくりと話をしたいしね」 そう言えば、自分はラウに祝福の言葉を告げただろうか。ふっとそんなことを考える。 「……ふむ。それはともかく、キラ嬢にお祝いの品ぐらいは贈らないといけないだろうね」 ラウはどうでもいいが、と笑う。 「あぁ、そう言えば……二人が子供を持つつもりなのかどうか、それも確認しないと」 必要であれば、医師としてフォローすることも必要なのではないか。キラの遺伝子はともかく、ラウのそれはかなり不安定だと思える。 「コーディネイトするなら、その不安は取り除けるかもしれないがね」 しかし、現在、地球上でコーディネイト出来る施設はない。そうなれば、やはり、プラントまで足を運んでもらわなければいけないだろう。 そうなれば、色々と厄介な問題が持ち上がってくる可能性は否定できない。 「……そうなると、引退はもう少し先延ばしするべきなのかな?」 もっとも、そのような状況であれば引退を先延ばしすることはやぶさかではないが……と続ける。 「どちらにしても、あの男の身柄を確保するか……完全にこの世から消し去ることが優先だね」 まずはそのために全力を傾けよう。ギルバートはそう言った。 |