「責任を取るというなら、諦めて受け取っておけ」
 カガリはそう言って微笑む。
「そうすれば、軍の連中も困らないだろうし」
 さらにこう付け加えられてしまった。
「でも、カガリ……」
 自分が正式な訓練を受けたことはないのだが、と困ったように続ける。指揮を執れと言われても、どうしていいのかわからない、とも付け加えた。
「ラウもマリューいるだろう? それにバルトフェルド隊長もな」
 おまけで、ネオ達もつけてやろう……と彼女は笑う。
「……バルトフェルド隊長はともかく、ネオさん達は、軍の人が嫌がらない?」
 たとえ、彼らが乗り込むのがアークエンジェルだとしても、とキラは言い返す。彼らが地球軍に属していて、オーブ軍に損害を与える理由を作ったのだから、と続けた。
「お前が責任者なら、誰も文句は言わないぞ」
 しかし、それにこう言い返されるとは思わなかった。
「カガリ……」
「ザフトとも話し合わなければいけない場面が出てくるはずだ。その時、代表者に肩書きがないのは困る」
 いくら、お前が《フリーダムのパイロット》でもな……と彼女は続ける。それだけでは不十分なのだ、と言われては納得しないわけにはいかないのではないか。
 それでも、踏ん切りが付かない。
 本当に自分でいいのか、と思わずにはいられないのだ。
「キラ様。軍人達は皆、キラ様が軍人としての訓練を受けていないことは知っています」
 どうやら、キラが何故ためらっているのか気付いたのだろう。キサカが口を開く。
 それでも、カガリの名代として自分たちの上に立つのであればキラに引き受けて欲しい。皆がそう考えているのだ。彼はそう続ける。
「キラ様の傍には、バルトフェルド隊長達もおられるからな」
 彼らが傍にいれば何の問題もない。
「カガリにも的確な助言をしてくれていたようだし」
 かなり成長したようだ、と彼は目を細めた。
「それは今、関係ないだろう!」
 自分のことは、とカガリが即座に反論をする。
「ともかく、だ」
 そして、強引に話題を変えようと口を開いた。
「いやでも押しつけるからな。あきらめろ」
 地位を与えるのは自分だ、と彼女は言い切る。
「……わかったよ。君の代わりをすると決めたのは自分自身だから……」
 でも、とキラはため息をつく。
「もう少し低くてよかったんだよ、僕は」
 与えられる地位は、と付け加えた。佐官ぐらいであれば、納得できたのに……とも続ける。
「あきらめろ」
 ラウとネオ、それにマリューに佐官の地位を与える以上、キラはもっと上でなければいけないのだ、とカガリは言い切った。
「……いいじゃない。今ぐらい愚痴を言ったって」
 実際に動き始めたなら、そんなことはやっていられないのだ。だから、とキラはカガリを見つめる。
「僕だって、結構カガリの愚痴を聞かされたよね?」
 さらにこう付け加えた。
「……まぁ、否定はしないぞ」
 その内容も思い出したのだろう。それに彼女は視線を彷徨わせながら言い返してくる。
「だから、いいじゃん」
 このくらいの愚痴ぐらい、と唇をとがらせた。
「こんなこと、カガリにしか言えないんだし」
 さらにこう付け加えた瞬間、カガリの表情が嬉しげに輝いたのはどうしてか。それは確認しなくてもわかってしまった。
「愚痴ぐらい、いくらでもいえ! お姉ちゃんがちゃんと聞いてやる」
 予想通りの言葉を彼女は口にする。
「カガリ……」
 あきれたようにキサカが彼女の名を呼ぶ。
「いいじゃないか。キラに地位を与えてしまえば、迂闊にこんな言葉を口に出来なくなるんだぞ」
 それでも、キラしか任せられる人間がいない。だから、と彼女は反論した。
「それはそうですが」
「ならいいだろう」
 愚痴ぐらい、言わせろ! とカガリは胸を張る。
「ともかく、割けるだけの兵力をお前につける。だから、無理だけはするな」
 その表情のまま、彼女は吉良へと視線を移した。
「わかっているよ、カガリ」
 それに笑みを返す。
「第一、無理させてもらえると思う?」
 アークエンジェルのみんなが、と付け加えた。
「確かにな。でなければ、あいつらをお前につけるか」
 せいぜい怒られろ。そう言う彼女に、キラは笑みに苦いものを混ぜた。



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