沈む船に用はない、と言うことなのだろうか。カガリ達がオーブに着くのと相前後してジプリールは宇宙へとあがったらしい。
「……馬鹿な連中だ」
 しかも、既に利用価値がないと判断されたのか。ウトナとその妻はカタパルトの傍で射殺されて発見された。
「……あいつにとって、他人はあくまでも道具か」
 カガリがいやそうに口にする。
「わかっていたことではあるね」
 残念だが、とラウは言い返す。
「しかし、キラを置いてきて正解だったかもしれない」
 この光景を見た場合、彼女がどんな反応を示すか。そう考えれば、と彼は続けた。
「ともかく、一応はこれでもセイランの当主だったしな。必要な調査を終えたら埋葬ぐらいはしてやるか」
 いっそ、海に流してもいいかもしれないが……と彼女は言う。墓を作っても、それに鬱憤をぶつける人間はいるだろうし、とため息をついた。
「その前にユウナ・ロマの方だろうね」
 ここに来る前にカガリがぶん殴って気絶させていたが、と笑いながら付け加えられる。
「それは否定しないが……」
 しかし、今、それを指摘しなくてもいいだろう。カガリはそう思う。
「軍人達は不本意だが、裁判までは彼の身柄を守ってくれるとは思うがね」
 多少のことは見て見ぬふりをするとしても、と彼は表情を引き締める。
「問題はジプリールの目的地だ」
 キラ達がシャトルの行方を追いかけているが、と続けたところで、ラウは言葉を切った。
「あいつのことだ。途中でシャトルを乗り捨てるくらいのことはするだろうな」
 今までの行動を見ていると、とカガリも頷く。
「ともかく、デュランダル議長と話し合いはしなければいけないか」
 この状況も含めて説明をするしかない。
 後は、ユウナが素直に白状してくれればいいのだが、と彼女は呟いた。
「それは大丈夫だろうね」
 即座にラウはこう言い返す。
「何で、だ?」
「彼のようなタイプは、自分が正しいと信じ切っている。そして、その正当性を主張しようとあれこれ口にしてくれるはずだ。その中に、自分にとって不利なことがあるとは考えない。
「好きにはなさせていれば、最終的にボロを出すと?」
 確認するようにカガリが問いかけてくる。
「私の予想ではね。あの男を同席させれば白日だろう」
 ギルバートであれば、その手の言質を引き出すのは苦ではないはずだ。
「どちらにしても、あちらと話し合わなければいけないだろう、ということは事実だが」
 だが、セイランの独断ですませるしかないだろう。もっとも、それなりの負担は覚悟しなければいけないだろうが、と続けた。
「……それもわかっている」
 言葉とともにカガリはきびすを返す。
「問題なのは、今後、私はオーブ本土を離れられない、ということだ」
 これから国内を立て直さなければいけない。
 他にも、ブルーコスモスの息のかかった連中を洗い出すという仕事もあるのだ。
「ジプリールの追撃を命じるにしても……私の代わりとして認められる者が、一人しかいない。それが問題なんだ」
 さらに彼女はそう付け加える。
 それが誰のことを言っているのか、ラウにわかった。
「……キラは、既に覚悟を決めているよ」
 オーブに戻ってくると決まったときから、と告げる。
「君が動けない以上、現状では自分が表に立つしかない。そう言っていたよ」
 だから、自分たちがフォローをするのだ。ラウはそう言って微笑む。
「もう、あの子を一人で戦わせたくないからね」
 そのために、自分はここにいる。他の者達もきっと同じ気持ちだろう。
「そうだな。わたしもできる限りの支援をするか」
 逆に言えば、それしかできないが……と彼女は続ける。
「それで十分だと思うよ」
 キラには十分伝わるだろう。そう言ってラウは微笑んだ。



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