しかし、セイランがここまで自分たちを過大評価しているとは思わなかった。
『この国に、現在、ロード・ジプリールは滞在していない。それ以上の言動は、オーブへの敵対行為と見なす』
 オープン回線でユウナ・ロマがそう言ったのだ。
「確かに、三年前、お父様も同じ返答をしたが……」
 しかし、とカガリは付け加える。
「あれは、当時の世界情勢と……何よりもお父様の人徳があったから、許されたことだ」
 あくまでも中立を保っていた人間の言葉と、明らかにブルーコスモスよりの人間の言葉のどちらを信用するか。それは考えなくてもわかることではないか。
「それともなんだ? あいつは自分がお父様と同じくらい信頼されていると思っていたのか?」
 自信過剰も甚だしい、とカガリは吐き捨てる。
「それに関しては、俺としても責任を感じているがな」
 ため息とともに口を挟んできたのはネオだ。
「あのお坊ちゃんは持ち上げると何でもやってくれたからな」
 適当に使わせて貰った、と彼は苦笑と共に付け加える。
「……まったく……そこまでバカだったか」
 おべっかと本心からの言葉の区別も付かないとは、とカガリは言った。
「逆だろう」
 あきれたような声音でバルトフェルドが口を開く。
「あいつの回りにはそんな人間しかいなかった。だから、誰もがそう思っていると信じているんじゃないのか?」
 あるいは、批判の言葉は耳に入らなくなったか……とそう続ける。
「とりあえず、直ぐにジプリールの身柄を僕たちが確保しないと……」
 そして、公衆の面前できちんと裁かなければいけないのではないか。キラは顔をしかめながら言葉を口にした。
「それも、ザフトが攻撃をしかける前に」
 このままでは民間人に被害が出る。彼女はさらに言葉を重ねた。
「避難勧告はでていないんでしょう?」
 だとするならば、本気で三年前の再現になるのではないか。いや、あの時よりも状況は悪い。
 三年前はかなりぎりぎりとはいえ避難勧告はでていた。それでも被害が出たのに、とキラは続ける。
「わかっている。あの悲劇は繰り返させない」
 カガリも即座に言葉を返してきた。
「既に、内密にジプリールの居場所を探させている」
 それさえ掴めれば、と彼女は続ける。
「……そうだね」
 そのためには、とキラが口にしようとしたときだ。
「ザフトから通信が入っています」
 ミリアリアが口を挟んでくる。
「……ザフトから?」
 何を言いたいのか、とカガリが顔をしかめた。
「話を聞かないと判断できませんわ」
 だから、話を聞くべきだろう。ラクスがそう言ってくる。
「そうだな」
 確かに、とカガリも頷く。
「しかし、あちら。とも敵対はしたくないが」
 おそらく、セイランは本気で反撃するだろう。いくら軍部の中に協力者がいるとは言え、現状、オーブを掌握しているのは連中だ。その指示に従おうとするものもいないわけではない。
 カガリの言葉に背後に控えていたアマギも頷いてみせる。
「いくら俺たちでも前後を挟まれれば厄介だからな」
 バルトフェルドもそう言って顔をしかめた。
「ともかく、相手の意図を知りたい」
 その言葉にはキラも同意だ。
 出来るだけ被害を少なくしたい。
 そのために出来ることは何でもしておきたい、と思う。
「……わかった。ミリアリア、すまないが」
「了解。回線を開きます」
 彼女は言葉とともに手元の端末を操作する。次の瞬間、モニターに映し出されたのは、豪奢な黒髪の人物だった。
『間に合ったようだね』
 そう言ってモニターの中の人物は微笑む。その口から次にどのような言葉が出るのか。それが気になってならない。同時に、怖いと思ってしまうキラだった。



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