「そうか……オーブに……」 想像はしていたが、ここまで予想通りだと逆にあきれてしまう。 「それで?」 アークエンジェルの動きは、とギルバートは言外に問いかける。 「現在、オーブに向かっているようです」 即座に言葉が返された。 「そうか……」 彼らはこの事実を知っているのだろうか。それとも、と思う。 「……内密にあちらに連絡を取れるように計らってくれたまえ」 どちらにしろ、今後のことを相談しなければいけない。それも早急にだ。 「わかりました」 即座にこう言い返される。 「まぁ、彼らがオーブに向かった、と言うことはセイランを追い落としにかかると決めたのだろうがね」 だが、セイランの元にジプリールがいる。あの男にすれば、オーブの技術力や財力はブルーコスモスを再結成するために喉から手が出るほど欲しいものではないか。 もちろん、カガリにはキラをはじめとする者達が付いている。 だが、オーブの国民を盾に取られた場合、彼らは動きが取れなくなる可能性も否定できない。 「それと、ミネルバにアークエンジェルを追うように伝えてくれ。私も同行をする」 そうすれば、どのような場合でも直ぐに対処が出来るはずだ。 「……ミネルバ一隻でしょうか?」 それだけでは足りないのではないか。言外にそう付け加えられる。 「直ぐに出航できる艦を護衛に連れていくよ」 ただ、ミネルバが一番都合がいいのだ。そう付け加えて苦笑を浮かべた。 「直ぐに手配をさせて頂きます」 納得したのだろう。秘書はこう言うと、直ぐに離れていく。 それを見送ると、ギルバートは椅子の背もたれに体重を預けた。 「問題は時間か」 セイランの部下のほとんどはジプリールの息がかかっているものだろう。だから、乗っ取ろうとすれば簡単なはずだ。既にセイランはお飾りのようなものかもしれない。 だが、軍部はアスハを指示する者が大半だとも聞いている。 それを切り崩されてしまえば、いくらカガリでもオーブを奪還するのは難しくなるのではないか。 だから、それよりも先に彼女たちにオーブに着いてもらわなければいけない。 「……後は、少しセイランに脅しをかけておいた方がいいだろうね」 そうすれば、彼らのことだ。焦ってボロを出すに決まっている。それをつつけば、あるいはこちらに有利に働くかもしれない。 どちらにしても、カガリ達との話を煮詰めてからだ……とギルバートは口にした。 刻一刻と詳しい情報が手元に届く。それを目にしているカガリの目尻が次第に切れ上がっていくのがはっきりとわかった。 「何を考えているんだ、あいつらは!」 他の国々でどれだけ彼らに対する怒りがわき上がっていると思っているのか。 そして、ジプリールは実行部隊であるブルーコスモスの盟主だ。 彼をかくまっているという事実が広まれば、その矛先はオーブへと向けられる可能性もある。そうなった場合、オーブという国がまた戦禍に包まれかねないだろう。 もちろん、オーブだけが無傷のままでいいとは思っていないが……と彼女は続けた。 「とりあえず、軍部だけでも掌握をしておかないといけないだろうな」 怒りはわかるが、冷静さを失うな……とバルトフェルドが口を挟む。 「そうですわ。あなたが冷静さを失えば、そこにつけ込まれる可能性があります」 さらにラクスもこういった。 「……わかっている。あまりに馬鹿すぎてあきれることも出来なかっただけだ」 それにカガリはこう言い返している。 「……モルゲンレーテは、どうなっているのかな」 キラが小さな声でそう言う。 「あそこは大丈夫だと思うが……だが、セイラン一派が何をするかはわからないな」 軍もモルゲンレーテもキラのファンが多い。だから、セイランにはいい印象を持っていないはずだ、とカガリはどこか自慢げに言葉を返してくる。それにキラは困ったような表情を作った。 「それ以上に厄介なのは、プラントの出方だろうね」 話題をそれから話した方がいいだろう。そう判断をしてラウは口を開く。 「お前はどう出ると思う?」 それにバルトフェルドが逆に聞き返してきた。 「おそらく、セイランに『ジプリールを引き渡せ』と言ってくるでしょうね」 問題なのは、それにどう反応するか、だ。それによって、ザフトが攻撃をしかけてくる可能性はある。 もっとも、とラウは続けた。 「カガリが早々に国の中枢を掌握してしまえば、被害を逃れることを免れるかもしれない」 そして、こちらが先にジプリールの身柄を確保してしまえばいい。そうも言う。 「確かに、それしかないだろうな」 バルトフェルドもそれに同意をする。 「なら、すこしでも早くオーブに着かないといけませんね」 速度を上げますか? とマリューが言う。 「頼む」 その間に取れる対策を考えておく。そう言うカガリにはようやく代表としての自覚が出てきたのではないか。こう考えてラウは小さな笑みを口元に浮かべた。 |