「それで?」
 どうするんだ? とカガリがアスランへと問いかけている。
「……どうするもこうするも……とりあえず、しばらく、お前達から離れるよ」
 そうしなければ、同じ事を繰り返すだけだ。そう言う彼にラクスがあきれたような表情を作る。
「本当に何もわかっていないわけですね、あなたは」
 そのまま彼女は言葉を口にした。
「結局は逃げ出すわけですか」
 この言葉に、アスランが彼女をにらみつける。
「いつ、誰が逃げたと?」
 そのまま低い声でこう言い返す。しかし、その程度でラクスがひるむはずがない。
「今、現状から逃げようとしているではありませんか」
 離れると言っても、自分のためだろう……と彼女は続ける。
「結局は、自分がこれ以上否定されたくない。だから離れるのだ、と言われても仕方がないですわね」
 女々しい、とラクスは言い切った。
 ものすごく厳しいセリフだとは思う。だが、アスランのためには必要なのだろう。キラは心の中でそう呟く。
「誰が女々しいのですか!」
 しかし、アスランはまだ納得できないのか。即座にこう言い返す。
「お前だろ」
 だが、それに言葉を返したのはラクスではない。カガリだ。
「二度と会わないならともかく、そうする気がお前にはないはずだ。だから、ここできっちりと自分の非を認めないと、本当に嫌われるぞ」
 キラに、と彼女は付け加えた。
「……そう言う自分はいいの?」
 思わずこう問いかけてしまう。
「お前達と違って私はこいつと将来を約束していたわけじゃないからな」
 嫌いになったとして、何の問題がある? と逆に聞き返されてしまった。
「確かに。カガリのお相手ならば、どんなときにでも逃げずにカガリを支えてくれる方がふさわしいですわ。ラウさんのように」
 そう言ってもらえるのは嬉しい。確かに、ラウであればどんなときでも自分の傍にいてくれるはずだ。何よりも、彼は自分が守らなくてもいい相手だから、と付け加える。
「それで? お前が大切にしたいのは今のキラか? それとも、月にいた頃のキラか?」
 その間にもカガリはアスランに疑問をぶつけていた。
「何を……キラは、キラだろう?」
「だが、キラだって日々成長している。お前は……外見だけのようだがな」
 頭の中身は停滞しているようだが、とカガリはさらに言葉を重ねた。
「それについては、まぁいい。ただ、お前のキラに対する言動を見ていると、子供達に対するそれと同じとしか思えない」
 だから、どうなのか。それを聞きたいだけだ。言葉とともに彼女はアスランの顔を見つめる。
「そんなこと、考えたこともない……キラは、キラだろう?」
 こう言いながらも、アスランは表情を強ばらせていた。どうやら、その事実に初めて気が付いたらしい。
「だが、お前の中のキラと現実のキラは違う」
 そんな彼にさらにカガリは追い打ちをかける。
「いい加減、現実に目を向けないと、本気でキラに嫌われるぞ」
 それでいいのか? と言われてアスランは反射的に首を横に振ってみせた。
「なら、どうすればいいのか。いい加減、わかっているはずだ」
 他の子供達相手には出来ていることだろう、と彼女は言い切る。
「だが……キラは俺が……」
「それはもう、私の役目だがね」
 苦笑と共にラウが言う。しかし、それがアスランの耳に届いているかどうかはわからない。
 おそらく、今の彼は混乱の極致にあるはずだ。
 それでも、表情が変わらないのは彼らしいと言っていいのかどうか。少しだけキラは悩む。
「……キラには、もう、俺の手助けは必要ない、と言うことか?」
 そんなことを考えていれば、アスランがこう呟いたのが聞こえる。
「そうだね。トリィの修理も何も、自分で出来るようになったし……出来ないことは、ラウさんが助けてくれるから」
 でも、とキラは微笑む。
「アスランは家族だから、たまには愚痴や思い出話に付き合って欲しい、とは思うよ」
 それだけじゃダメ? と首をかしげた。
「……それだけで、満足しなければいけないんだろうな……」
 わかってはいたのだ。ただ、認めたくなかっただけで。そう呟く彼の表情を見ていれば、もう大丈夫なのではないか、と思える。
「と言うところで、アスラン君に帰還命令が出ているそうなのだけど……」
 マリューがそっと口を挟んできた。
「何かあったのですか?」
 アスランが呼び戻されりと言うことは、とキラは反射的に問いかける。
「さぁ、ただ、出来るだけ早く、との事なの」
 彼女は苦笑と共にそう言い返して来た。
「戻ります……俺はもう、ここの一員ではありませんから」
 言葉とともにアスランは立ち上がる。
「お騒がせしました」
 言葉とともに彼は頭を下げた。そして、足早にでていく。
「ようやく、目から鱗が落ちたようですわね」
 ラクスがそれを見送りながらこういう。
「後は、これからどうするか、だな。自分のアイデンティティをひっくり返されたようなものだ」
 とりあえず、傍にいる誰かにフォローさせるか。バルトフェルドもそう言って頷く。
「……無理をしなければいいけど……」
「大丈夫だろう」
 そう言って、ラウがそっと肩に手を置いてくる。それに自分の手を重ねながら、キラは頷き返した。



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