気分転換だと言って、ラクス達がキラを大浴場へと連れて行った。 「まぁ、キラにとってはいいことか」 苦笑と共にバルトフェルドが言う。 「そうですね。いろいろとあったようですし」 マリューもそう言って頷いてみせる。 「ところで……」 ふっと思い出したように彼は視線をラウへと向けてきた。 「お前らは子供は作らないのか?」 いきなり投げつけられた言葉にラウは思わず目を丸くする。 「何だ? 考えていなかったのか?」 その表情を見てバルトフェルドが楽しげな表情を作った。どうやら、ラウのすまし顔を崩せたのが嬉しいらしい。 「別に考えていないわけではありませんよ」 仕方がない、と言うようにラウは口を開く。しかし、ここにいるのは自分たちの秘密を知っている者達だけではないのだ。だかっら、と言葉を選ぶ。 「ただ、キラが恐がっているので」 自分が子供を持つことを、と言えばその場にいた者達は皆、驚いたような表情を作った。 「恐がっている?」 「自分が産むことでも育てる事ではありませんよ」 とりあえず、とラウは告げる。 「ひょっとしたら、その子供をよからぬことに利用しようとするものが出てくるかもしれない。そんな者達から子供を守ることができるかどうか。それを恐がっているだけです」 カガリとのことも公然の秘密になっている。何よりも、彼女自身の才能に魅力を感じているものも多い。その中には自分たちにとって好ましくないものもいるのだ。 「子供が生まれたなら、その時は私も全力で守るつもりですが……あの子が不安を感じている以上、無理強いは出来ません」 負担が大きいのはキラの方だ。そう続ける。 同時に、自分たちの間に産まれる子供は普通の子供なのか。そんな不安があることも否定できない。 あるいは、彼ならばその答えを知っているのだろうか。 脳裏に友人の顔を思い浮かべながらそんなことを事を考える。 今度顔を合わせたときにでも聞いてみよう。もっとも、その前に自分が死ぬようなことにならない要注意をしなければいけないだろうが、と心の中で呟く。 「……確かに、そうだな」 あのバカの事を思い出せば、とバルトフェルドも頷いてみせる。 「その時には、いくらでもフォローして上げたいけれど、私も子供を産んだことはありませんし」 これからうむ予定があるかどうかもわからないから、と少し寂しげな表情でマリューが言った。 もし、あの男がアークエンジェルに救助されていたならば既にその腕に子供を抱いていたのかもしれない。しかし、現実は……と考えてやめる。 過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がない。それよりも前を見て欲しい、と言ったのはキラだった。だから、とラウは別の事へと意識を向けた。 「子育てに関しては、カリダさんがいらっしゃるから、心配はいらないと思っていますが」 やはり、キラの気持ち次第だろう。 「……まぁ、君もこれから産もうと思えば産めるからね」 問題は、やはり、彼の記憶だが……とバルトフェルドは苦笑を浮かべる。 「やっぱり、何か衝撃を与えるしかないのか」 かといって、カガリにやらせるのは……と彼は続けた。 「命に支障が出そうですから、やめてください」 即座にマリューが言い返す。 「確かに。それよりも、精神的なショックの方がいいかもしれませんね」 だが、どのような内容がいいのか。それが思い浮かばない、とラウはため息とともに付け加える。 「確かにな」 いい方法があれば試してみたいが、とバルトフェルドも頷く。 「それよりも、キラさんの事を優先しないと」 自分のことはその後でもいいのだ。マリューはそう言った。 「彼女を戦争に巻き込んだのは、私ですから」 だから、と言い切れる彼女は本当に強い女性だ、と思う。だからこそ、幸せになって欲しい……とキラが言っていた気持ちもわかる。 「それに関して、あの子はもう何も思っていないと思いますよ」 彼女のことを恨むならば、自分はどうなるのか。心の中でそうはき出したときだ。 「……アスラン・ザラから連絡です」 CICに座っていたチャンドラがこう口を挟んでくる。 「ようやく気持ちが定まったか」 さて、どんな結論を出したのやら。バルトフェルドはそう言いながら通信機へと移動していく。 「あぁ。キラ達を呼び戻しておいてくれ」 途中で足を止めると振り向きながら、マリューへと声をかける。 「わかっていますわ」 彼女はそう言って頷く。そして、手元の端末を操作し始めた。 |