「お前は、俺のことが嫌いなのか?」
 アスランの言葉にキラは予想もしていなかった言葉を聞いたというような表情を作った。
 それも当然だろう、とラクスは思う。
 彼女はアスランを鬱陶しいとは思っていても嫌ってはいなかったのだ。彼の言葉は独りよがりだったとしても、彼なりに自分のことを考えてくれていたから出た言葉だとわかっていたのだろう。
 だが、アスランにはそれではいけないのだとわかっていなかったのだ。
「何を言っているの?」
 ようやくキラはこう言い返す。
「アスランを嫌いだと思ったことはないよ」
 この言葉を耳にした瞬間、彼は嬉しげな表情を作った。
「時々、鬱陶しいと思うけど」
 しかし、それはこの言葉であっさりとかき消される。
「鬱陶しい?」
「そう」
 アスランの問いかけに、キラはあっさりと頷いた。
「僕のことを考えてくれていたのはわかるよ? でも、出来ることまで先回りしてやられるのは、嬉しくない」
 そして、こう付け加える。
「何よりも、僕だって考えることは出来るのに、それも邪魔しようとしてくれたのはいやだった」
 失敗したとしても、後悔したとしても、自分で決めたことなら納得できる。しかし、その機会すらアスランは自分から取り上げようとしていたではないか。
「僕は、もう、小さい子供じゃない」
 自分で判断して行動できる、とキラは主張した。
 ラウがそんな彼女をなだめるかのようにそっと肩の手に置く。
 思いを寄せ合っている者同士ならば当然のそんな行為も、アスランには面白くないのか。微かに眉根を寄せている。
「俺の言葉は、必要なかった……と言うことか?」
 それでも必死に冷静さを保ちながら彼は問いかけた。
「そうじゃない。注意をしてくれることは嬉しい。でも、アスランは僕の言葉には耳を貸さないで自分の言いたいことだけ言うから」
 自分だけにではない。カガリにも同じ態度を取っているだろう、とキラは言う。
「カガリだって、自分で考えられるし、判断も出来るよ?」
 もちろん、一国の代表である以上、間違えてはいけないことはある。だから、助言をいてくれる人は必要だろう。
 それでも最終的に決めるのはカガリ本人だ。
 しかし、アスランはそれを認めようとはしない。自分が口を出さずにはいられないではないか。
 はっきり言って、ラクスもキラがここまで考えているとは思わなかった。
 しかし、と直ぐに思い直す。聡明な彼女のことだ。考える時間がを与えられればその位は気付くのではないか。何よりも、彼女は自分たちでも想像がつかないような様々な経験をしていたのだし、と心の中で呟く。
 同じようなことをカガリも感じたのか。彼女も複雑な視線をキラへと向けているのがわかった。
「……キラ……俺は……」
 ただ一人、アスランだけが純粋に驚いている。
「アスランの中にいる僕は、いくつの時の僕のイメージなの?」
 キラが逆にこう聞き返す。
「……それは……」
 おそらく、アスラン自身、それを考えたことがないのだろう。焦ったような表情で言葉を探している。
「それがわからないから、あなたはキラに『邪魔だ』と言われ、カガリに振られたわけですわね」
 ただ、これだけは事実だろう。そう思ってラクスは彼に言葉を投げつける。
「……ラクス・クライン……」
 何を言いたいのか、とアスランが怒りの矛先を向けてきた。
「本当のことだけしか口にしていないつもりですわ。それに、そうやって逃げるからいつまで経っても真実に気付かないのでしょう、あなたは」
 それでは、何度でも同じ事を繰り返すだろう。
 そして、いつか本気でキラとカガリに愛想を尽かされるのではないか。
 ラクスの言葉にアスランは恨めしそうな表情を作る。
「とりあえず、ゆっくりと自分の言動を振り返ってみるのだね。そうすることで気付くこともあるだろう」
 自分がそうだったように、とラウも口を開く。
「とりあえず、あちらには連絡を入れておいてやる。好きなだけそこで悩め。でないと、言いたいことも言えないだろうそな」
 バルトフェルドがこう締めくくった。
「そして、結論が出たらブリッジに連絡を入れてこい」
 この言葉を合図に皆が立ち上がる。
「ここで逃げ出したら、お前はずっとそのままだぞ」
 さらにダメを押すようにバルトフェルドが声をかけた。しかし、アスランはそれに言葉を返しては来ない。それに、キラが不安そうな表表情を作った。
「大丈夫だよ、キラ。アスランもそこまでバカではないだろう」
 即座にラウがこう囁いている。それは彼女をしっかりと見ているからだ。その事実に彼が気付くかどうか。それが彼の今後を決めるかもしれない。
 もっとも、気付かないようなら放り出してしまえばいいだけかもしれないが……とラクスは心の中で呟いていた。



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