アスランの姿が見えないのはどうしてなのだろう。
「そういや、セイバーもなかったな」
 と言うことはどこかに出撃をしたのか。しかし、どこに……とシンが顔をしかめたときだ。
「シン」
 レイが声をかけてくる。しかし、彼の表情はいつになく険しい。
「何かあったのか?」
 その表情から判断すると、と思いながら聞き返す。
「アスランを見なかったか?」
 そうすれば彼は質問の言葉を投げつけてきた。
「いや。俺もいないな、って思っていたところだ」
 セイバーもないし、と付け加えれば、レイは眉間にしわを寄せる。
「アークエンジェルがベルリンで敵のMSを鹵獲したらしい、と聞いたんだが……まさか……」
 アスランもそちらに向かっているわけではないだろうな、と彼は付け加えた。
「可能性としては否定できないな……」
 レイはため息とともに頷いてみせる。
「艦長ならばご存じだろうが……さて、どうするか」
 そんなことで彼女の時間を奪っていいものかどうか、と彼は続けた。
「何で、あいつが《FAITH》なんだろうな」
 首になわを付けられないじゃないか……とシンは言い返す。
「まぁ、あの時は正しいと思っていたんだろうな」
 誰もが、とレイはまたため息をついた。
「しかし、どうやって確認するか……」
「チーフなら、セイバーが出撃したかどうか知っているんじゃないのか」
 レイの言葉にシンはこう言い返す。
「そうだな。それでもわからなければ艦長にお時間を割いて頂くしかないか」
 至急確認したいことがあるから、と彼は続ける。
「それがいいんじゃね?」
 とりあえず、自分も知りたい。だから、レイにくっついていこう。心の中でそう呟くシンだった。

 目の前に座っているアスランの表情がさえない。
「カガリ?」
 自分たちが着替えている最中にいったい何があったのだろうか。言外にそう滲ませながらキラは視線を向ける。
「気にするな。ラクスの言葉が的を射ていただけだろう」
 それのせいで自分を省みてショックを受けているだけだろう、と彼女は言い返してきた。
「なるほど。ようやく己を省みていると言うことか」
 苦笑とともにバルトフェルドが頷く。
「よっぽど、キラに蹴落とされたことがショックだったようだな」
 そう付け加えられてキラは思わず視線を彷徨わせてしまった。無意識とはいえ、あんな事をしてしまったという事が、今更ながらに恥ずかしくなってきたのだ。それに、ラウに心配をかけてしまった事も気にかかるし、と心の中で呟く。
「まぁ、いいじゃないか。こいつもケガをしたわけじゃないしな」
 恥をかいたかもしれないが、とカガリが笑う。
「自業自得ですわ」
 ラクスがきっぱりと言い切る。
「ともかく、いい加減、現実を見て頂かないと困りますもの」
 鬱陶しいだけではなく邪魔になるから、と彼女は付け加えた。
「俺は……」
 アスランは即座に何かを言い返そうと口を開く。しかし、言葉が見つからないのか、直ぐに口をつぐんでしまう。
 あるいは、自分が見ていないところでさんざん彼女たちに絞られたのかもしれない。
「とりあえず、話したいことがあるのでしたら、今ここできちんと口にしてくださいませ。状況によっては今回が最後になりますから」
 ラクスの微笑みがどこか怖い。それを見て、カガリが頬をひきつらせている。どうやら、そう考えていたのは自分だけではなかったようだとキラにはわかった。
 だからといって、安心していいわけではないが。
「……キラ」
 何かを決断したかのような表情でアスランが彼女を見つめてくる。
「お前は……俺のことを、嫌いなのか?」
 彼の言葉に、意味がわからないとキラは首をかしげた。



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最遊釈厄伝