ゆっくりとフリーダムが所定の位置へと固定される。 次の瞬間、ハッチが開かれた。 「降りてきなさい、キラ」 それを確認して、ラウはいつものように声をかける。そうすれば、彼女がハッチから姿を見せた。 「ラウさん」 自分の姿を見た瞬間、彼女がほっとしたような表情を作ったように見えたのは、錯覚ではないだろう。 「とりあえず、汗を流して着替えなさい」 それが終わるまでは他のことを考えなくても構わない。そう言いながら微笑みかける。 「でも……」 アスランが、とキラが呟くように口にした。 「彼のことは今はほっておいた方がいいよ」 ラクスとカガリ、それにバルトフェルドの三人がかりで文句を言われている最中だ。そんな姿を見られたい人間はいないだろう。小さな笑いと共にそう告げる。 「……懲りてないわけですね?」 ため息とともにキラが問いかけてきた。 「アスランだからね。もっとも、あそこまでしつこいとは思ってもいなかったよ」 あの執着を他の方向に向けてくれれば、それこそ心強いと言えるだろうに……とラウはため息をついてみせる。 「そう言うことだからね。今は彼に顔を見せない方がいいだろう」 こう付け加えたのは、自分が彼の存在を面白くないと思っているからだ。あるいは、自分の感情を遠慮泣くキラにぶつけている彼に嫉妬しているのかもしれない。 しかし、そんなことをするよりも大人としての余裕を見せる方がいいと考えている自分がいることも事実だ。 「そうですね。僕、アスランにあんなこと言っちゃったし……」 きっと、あきれられているのではないか。そう言って彼女は肩を落とした。 「まぁ、アスランの場合、自業自得だろう」 だから、気にすることではない。そう告げれば、彼女の頭が小さく縦に振られた。 「ラウさんにあきれられていないなら、いいです」 こう言ってくる彼女の肩にラウはそっと手を置く。 「私としては、あんな攻撃方法があったのか、とびっくりしたがね」 キラの実力とフリーダムのスピードがあったからこそ、あそこまで接近することが可能だったのだろうが……とラウは苦笑を浮かべた。 「しかし、私の心臓が痛むからね。あまり多用しないでくれるかな?」 あの攻撃は、と付け加える。 「はい」 気をつけます、とキラははっきりとした口調で言い返してきた。 「いいこだね」 言葉とともに彼女の頬に触れる。そうすれば、彼女は嬉しそうに目を細めた。その表情は自分だけに向けられたものだ、と思った瞬間、背筋をぞくぞくとしたものが駆け上がっていく。 もっとも、そんな自分をキラには知られないようにしないといけないだろう。 流石にこの状況で彼女に欲情したなととは他人に言われれば何を言われるかわからない。バルトフェルドあたりであれば苦笑ですませてくれるだろうが、女性陣は……と考えただけで熱が散ってくれた。 その事実に、ほっとする。 同時に、九歳も年下の少女達にどんな感情を抱いているのかとも思ってしまう。 しかし、キラも含めた彼女たちを普通の少女だと思ってはいけない。 彼女たちはそれぞれが大人も顔負けの実力の持ち主だ。バルトフェルドですら、彼女たちを本気で怒らせないようにしているようだし、と考えて自分を慰める。 「ラウさん?」 言葉とともにキラが身をすり寄せてきた。 「どうかしたのかな?」 人前で甘えてくるとは珍しいね、と口にしながら彼女の肩を抱く。 「何となく、甘えたくなったんです……ダメですか?」 「だめと言うはずがないだろう?」 むしろ嬉しいね、とラウは笑う。 「もっと甘えてくれても構わないよ?」 さらにこう付け加える。 「よかったです」 キラがこう言ったときだ。 「キラァ!」 アスランの悲鳴のような叫びが耳に届く。 「アスラン?」 はじかれたように彼女は視線を向けた。もっとも、ラウも同じような行動を取った以上、文句は言えない。 「……今度は何をやったのだろうね」 確認しに行った方がいいだろうか。そう思いながらも腕の中の少女の顔を見つめる。 「……できれば、先に着換えだけでも……と言いたいところだが、そういわけにはいかないようだろうね」 行こうか。この言葉にキラは困ったような笑みを口元に浮かべた。 |