目の前の光景をどう判断すればいいのだろうか。
「……バルトフェルド隊長……」
 思わずラウは隣にいる彼に呼びかけてしまう。
「俺に聞かないでくれないか?」
 即座に彼は言い返してくる。
「どちらにしても、今ならキラを連れ戻しても大丈夫だと思うが?」
 アスランのあの様子なら、と彼は視線を向けてきた。
「確かにそうでしょうね」
 今のアスランであれば――言葉は悪いが――ミリアリアでも十分に押さえつけていられる。キラならば十分に逃げることが可能だろう。
「もっとも、キラを見た瞬間、復活する可能性は否定しないが……まぁ、その時は俺たちが何とかするしかないだろうな」
 もっとも、その前に整備クルーかオーブの軍人達に邪魔されるだろう。そうなれば、キラだって何とか自力で安全な場所まで移動してくれるのではないか。
「……問題は、キラの性格だろうが……それはお前が何とかしろ」
 呆然としていたなら、抱えて逃げろ……と彼は笑いながら付け加える。
「わかっていますよ」
 その時は全力で安全地帯まで移動しましょう、と同じような表情で言い返す。
「ともかく、キラに戻ってくるように連絡します」
「わかった。なら、俺はカガリ達のフォローに回る」
 笑いながら、彼はラウの肩を軽く叩く。そのまま真っ直ぐにカガリ達の方へと歩き出した。それを確認してから、ラウはきびすを返す。そして、端末へと歩み寄った。

 バルトフェルドが近づいてきたことすら、アスランは認識できていなかった。
「……キラ……」
 いったい、どうして……と呟くだけだ。
 彼女が自分をはっきりと『邪魔だ』と言ったのは、今回が初めてだ。
 しかし、今回のことだけであんな行動に出るとは思っていない。つまり、以前から彼女は自分の言動をそう思っていたと言うことではないか。
 だが、そんなことを考えられるような言動を取った記憶はない。
 特に、オーブに移住してからは……だ。
 そうしようにも、彼女の隣には彼がいた。そして、自分がキラのためにしてやりたいと思っていた事は、みんな、彼がしていたではないか。
 なのに、何故……と考えてしまう。
「カガリ。それ、捨ててきてもよろしいのではありませんか?」
 その時だ。頭の上からあきれたようなラクスの声がふってくる。
「そうだな。それがいいかもしれないな」
 確かに、とカガリが頷く気配が伝わってきた。
「このままでは鬱陶しいだけだし……何よりも、こいつの頭の中には自分にとって都合のいい《キラ》の姿しかないようだしな」
 まったく、本当に誰と付き合っていたんだ、こいつは……と彼女はさらに言葉を重ねる。
「こいつのことだ。キラがコーディネイターだとか、あいつのことはラウが責任を持ってサポートしているとか、頭の中から吹き飛んでいるに決まっているぞ」
 さらに彼女はそう付け加えた。
「だから、キラに『邪魔だ』と言われたんだろう」
 さらにバルトフェルドの声が耳に届く。
「まったく……キラでなければ、こいつのせいでおとされていたかもしれないぞ」
 それすらも理解できなかったのか、と彼は続けた。
「そんなことをさせるはずがないでしょう!」
 反射的にアスランは叫ぶ。
「身を張ってでも守ったに決まっているじゃないですか!」
 さらに彼は続けた。
「それで、キラの心をまた傷つけると言われるのですね?」
 あきれます、とラクスが言う。
「そうだな。ここまでバカだったとは思わなかった」
 捨ててくるか。カガリは本気でそう言っている。
「ですが、下手に捨てると戻ってきますわよ?」
 ザフトの方に引き取りに来てもらった方がいいのではないか。ラクスが冷静に告げる。
「本当に、いい加減、現実を見ればいいのに」
 さらに付け加えられた言葉に、アスランは唇を噛むしかできない。
 下手に反論をすればどうなるか。予想もつかないのだ。だが、それでも自分が間違ったことをしたとは思いたくない。
「キラは戦ってはいけないんだ」
 そうすることで彼女は自分を傷つけるから、とそう呟く。
「戦うと決めたのも、キラ自身ですわ」
 しかし、しっかりと聞かれていたらしい。ラクスが一刀両断にしてくれる。
「あなたは彼女を守ろうとして、彼女の意志を全て否定しているのです」
 だから、今回のような失敗をするのだ。そう言われても直ぐに納得できるはずがなかった。



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最遊釈厄伝