あの機体――デストロイに遭遇したのはベルリンでのことだった。
「どうやら、ザフトが先に住民を避難させてくれているようだね」
 なら、建物への被害は大目に見てもらうしかないだろう、とラウが言う。
「そうだな。その位は妥協してもらうしかないな」
 バルトフェルドもそれに頷いている。
「それにしてもあの火力……戦艦並みですね」
 マリューがいやそうに顔をしかめた。
「と言うことは、動力源は、やはり……」
「可能性は否定できないだろう。連中にしても、N・ジャマーキャンセラーは手にしている」
 持っている以上、使ったとしてもおかしくはない。バルトフェルドはきっぱりと言い切った。
「と言うことは、やはり……」
 言葉とともに、キラは顔をしかめる。
 それが誰の行動の結果か。今の彼女は知っている。そして、彼がどうしてそのような行動を取ったのかも、だ。
「まぁ、過去のことは終わったことだ。今更どうこう言っても仕方がないな」
 それに気がついたのだろう。カガリがこう言いながら、キラの背中を叩いてくる。
「それよりも大丈夫か?」
 そのまま彼女はキラの顔をのぞき込んできた。
「何が?」
 意味がわからない、と言うようにキラは聞き返す。
「……お前に出来ないなら、無理はしなくていいんだぞ?」
 パイロットのことを考えなければいくらでも方法はあるのだ。カガリはこう言ってきた。
「心配してくれてありがとう。でも、これは僕がやらなきゃいけないことだから」
 だから、出る、とキラは言い切る。
「大丈夫。ちゃんとわかっている」
 それでもあがきたいだけ、と微笑みながら付け加えた。
「諦めたまえ。キラの性格は君も知っているだろう?」
 見かけによらず頑固なことも、と苦笑を滲ませた声が割り込んでくる。
「ラウ……わかってはいるが、心配するくらい構わないじゃないか」
 キラは自分の妹なのだから、とカガリは言い返す。
「それに、私は一緒にいけないんだぞ」
 ここで見ているしかできない。そう付け加える。
「だから、私たちが行くのだよ」
 小さな笑みと共にラウは言う。
「それよりも、キラ。皆の準備が出来たそうだよ」
「わかりました」
 ならば、少しでも被害を抑えるために出撃するべきだろう。そう考えた瞬間、キラは自分の表情が引き締まっていくのがわかった。
「いきましょう」
 色々な意味をこめて、キラはラウに呼びかける。
「もちろんだよ」
 そうすれば、彼は直ぐに微笑んでくれた。
「こらこら。俺も一緒に行くというのを忘れてないか、お前は」
 苦笑と共にバルトフェルドが割り込んでくる。
「お前は悩むな。だが、お前に何かありそうなときは、遠慮なく割り込むぞ」
 手を汚すのは自分で言い、と彼は言外に続ける。
「バルトフェルド隊長」
「その方がお前も気持ちが楽だろう?」
 彼が何を言おうとしているのかもわかった。
「ですが……」
「いいから。お前はまだ子供なんだから、大人に任せることは任せておけ」
 でないと、ラクスが怖い……と彼が小声で付け加える。その意味がわからないわけではないが、と思いながらさりげなく名指しされた当人の顔を盗み見た。
 次の瞬間、それを後悔してしまう。
「と言うことだから、さっさと行くぞ」
 わかっていてやったのか。そう言いたくなるが、下手につっこまない方がいいだろう。そう判断をしてキラは歩き出した。



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最遊釈厄伝