映像で見るのと実物とはやはり印象が違う。
「……大きいですね」
 予想していたものよりも、とキラは呟く。
「地上では高さの制限がないから、だろうね」
 プラントではどうしてもプラント内部での作業を考えて大きさを考えてしまう。そして、先に開発したプラントのものが全ての基準となっていたのだから、とラウが言葉を返してきた。
「あんなに大きければ、プラントでは立つことにも制限が加えられる」
 この言葉に、とっさに脳内でその情景を思い描いたのだろう。
「そうですね」
 キラも頷いてみせる。
「もっとも、あの火力なら……破壊するだけなら十分ですよね」
 言葉とともに彼女は顔を曇らせた。
「だから、あれは必要ない……そうは思わないかな?」
 こう問いかければ、彼女は小さく頷いてみせる。
「でも……」
 だが、まだ何か悩みがあるのだろうか。彼女はどこか憂いを消せないような表情で目の前のそれを見つめている。
「どうしたのかな、キラ」
 何が不安なのか、とラウは問いかけた。
「あれのパイロットを殺さずにすむ方法が、まだ見つけられません」
 どこを攻撃しても、コクピットに被害が及びそうだ。だから、と彼女は続ける。
「キラ……」
「わかっています。どうしても助けられない事もあるって……でも、僕は……」
 誰であろうとその命を失いたくない。囁くような声で彼女は口にした。
「わかっているよ、キラ」
 君の気持ちは。そう囁くと、ラウは彼女の肩をそっと抱きしめる。
「大丈夫。方法はあるはずだ」
 それを探す間の時間であれば、自分たちが何とか稼げるだろう。だから、キラはそれを捜せばいい。小さな肩を抱きしめながらそう囁いた。
「……ラウさん……」
「私は君の希望を叶えるためにここにいる。それが今の私の幸せだからね」
 だから気にすることはない。そう付け加える。
「……ありがとうございます」
 それにキラはうっすらと微笑んだ。
「でも、地球軍のマザーにも、あの機体のデーターはなかったんです」
 どうやら、既に彼女はハッキングをしかけていたらしい。
「あの子達のデーターでさえあったのに……どうして……」
「既に、ハッキングされていることを連中が予測していたから、ではないかな?」
 ブルーコスモスのデーターがないように、とラウは言う。
「そうでしょうか」
「そうだろうね」
 自分たちのデーターも残っていないのだから……と心の中だけで付け加える。自分たちを作ったとき、アルダ・フラガはブルーコスモスと関わりを持っていたはずだ。その一環としてのクローン製作だったはず。
 しかし、それをキラに告げない方がいいだろう。
「大丈夫だよ。あれだけ大きくても、結局、あれはMSだ。基本的な部分で大きな変更されているはずがない」
 細かな部分で変更はあったとしても、だ。
「何よりも、あれだけの大きさだ。関節部分を損傷すれば、動けなくはなるだろうね」
 とりあえずの対処法だが、と付け加えつつ、言葉を告げる。
「そう、ですね」
 キラがほっとしたような表情を作った。どうやら、今の言葉が彼女にとってとるべき行動の指針になってくれたらしい。
「マードック氏が頑張って解析しているようだからね。彼がもっといい方法を見つけてくれることを祈ろう」
 この言葉にキラは小さく頷く。
「せめて、動力ラインがわかれば、遮断できるのですが」
 いつもの彼女が使う手段だ。確かに、パイロットの命を最優先に考えればそれがいいのだろうが、あの機体では難しいように思える。
 しかし、それでも彼女はそうしようとするのだろう。
 嫌われる覚悟をしておいた方がいいだろうか。ふっとラウはそんなことを考える。
「とりあえず、少し休みなさい。せめて、出撃まで」
 できればそのような事態は避けたいのだが。そう考えながら声をかけた。
「はい」
 キラが小さく微笑みながら頷く。やはり、そう言うことはバルトフェルドに押しつけてしまおう。その表情を見た瞬間、ラウはこう結論を出していた。



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