「アークエンジェルが移動を開始した?」
 グラディスにアスランはこう聞き返す。
「えぇ。何か思いあたることはないかしら?」
 オーブに戻るつもりなのだろうか、と彼女はさらに問いかけてくる。
「そんなはずはないかと……何か起きているという情報はありませんか?」
 どこかから呼び出されたのかもしれない。そう続けた。
「……ひょっとしたら、あれかしら?」
 思いあたるものがあったのか。彼女は直ぐにこんな呟きを漏らす。
「でも、あそこはオーブとは直接関係がなかったはず……」
 なのに何故、と彼女は言外に付け加える。
「どこでしょうか」
 確かに、直接オーブとは関係がないのかもしれない。だが、あそこにはラクスがいる。彼女の関係、と言う可能性だって否定できないのだ。
「スカンナビア王国よ」
 正確には、そこを含む北欧だ……とグラディスは言った。
「では、間違いなく彼らから呼ばれたのだと思いますよ。あの艦にはラクスが乗り込んでいますから」
 彼女の父のシーゲル・クラインは彼の国で生まれた関係で、今でもパイプがあるらしい。おそらく、オーブから逃げ出した後の彼らは彼の国でかくまわれていたのではないか。
「そう。なら、納得ね」
 グラディスは腑に落ちたという表情で頷いてみせる。
「艦長?」
 それで何があったのか。それを教えて欲しい……とアスランは言外に問いかけた。
「あぁ、そうだったわ。こちらだけ納得しても意味はないわね」
 即座に彼女はこう言い返してくる。
「と言っても、口で説明をするよりも、実際の映像を見て貰った方がいいとわかるけど」
 さらにこう続けると手元の端末を操作した。そうすれば、モニターに映像が現れる。
「欧州のザフトから送られてきた映像よ」
 彼女の説明もどこかとおくから聞こえてくるような気がする。
 それも無理はないだろう。
 誰がこの光景を想像しただろうか。  一機のMSが誰彼構わず攻撃をしている。確かに、あの地域は大西洋連合に加わってはいない。だが、ザフトというわけでもないのに、だ。
 だが、問題はそこではない。攻撃をくわえている機体の方だ。
 建物の大きさから推測して、おそらく、通常の機体の倍以上の大きさだろう。
「何を考えているんだ、地球軍は」
 思わずそう呟いてしまう。
 だが、直ぐにその考えを捨てた。MSが現在の大きさになったのはプラント内部での運用を考えてのことだ。しかし、地球上ではその制限はないに等しい。つまり、連中はただ、破壊力だけを追及してあんな機体を作り上げたと言うことだろう。
「大西洋連合に参加していない国を統べて焼き払う気か?」
 だから、あんな風に無差別に攻撃をしているのではないか。
「……ただの威嚇、のつもりかもしれないわね」
 地球軍にしてみれば、とグラディスがため息をつく。
「どちらにしても、私たちは命令がなければ動けないわ」
 悔しいけれど、と彼女は付け加える。
「……あいつらにはそんな制約はありませんからね」
 しかし、危険には変わりない。
 いっそ《FAITH》の特権を使ってさっさと彼らを追いかけようか。だが、そうしようとしても自分が彼らと合流することをギルバート達は阻止しようとするだろう。
 本当に忌々しい。
 そうは思うが、ザフトにいる以上、仕方がないことではある。
「とりあえず、誰でもいいから、あれを阻止して欲しいものだわ」
 たとえナチュラルであろうと、民間人が被害を受けるのは認められない。グラディスはそう言ってため息をついた。
「そうですね」
 自分だって同じ気持ちだ。
 だが、見知らぬ誰かよりもキラの方が大切だと言っていい。ふられたのかもしれないが、かがりもだ。
 だから、彼女たちが安全な場所にいて欲しいと思う。
 なのに、どうして彼女たちは自ら危険に飛び込んでいこうとするのか。
「……自分たちに出来ることと出来ないことの区別をつけてくれればいいのに」
 口の中だけでそう呟く。
「そう言うあなたもね」
 グラディスがため息混じりにこう言い返してくる。
「どういう意味でしょうか」
「自分で考えなさい」
 自分で気付かなければ意味がない事よ……とグラディスは付け加えた。しかし、自分は間違ったことはしていないと思う。
 何故、自分がこのような立場に置かれているのか。きちんと説明して欲しいと思う。
「……とりあえず、ありがとう。何か新しい情報が入ったら教えるわ」
 言外に『出て行け』と言われる。
「失礼します」
 それに逆らわずに、アスランはその場を後にした。



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最遊釈厄伝