「ネオ! どっちが似合う?」
 ねぇねぇ、といいながらステラが彼に甘えている。
「……どっちも似合うと思うが……いいのか?」
 後半は彼女にではなく自分たちに向けられた言葉なのだろう。
「構いませんわ。わたくしたちも見ていて楽しいですもの」
 コロコロと笑いながらラクスがそう言った。しかし、彼女の瞳は冷静に彼らの様子を観察している。
 それが出来るのは、間違いなくラクスだけだ。
 だから、子供達に『怒らせると怖い』と言われていたのだろう、彼女は。
 キラがそんなことを考えていたときだ。
「……なぁなぁ。俺らにも何かないの?」
 いきなり脇からこんな声がかけられる。
「えっと……アウル君?」
 何、とキラは聞き返す。
「何で、ステラだけなんだよ」
 そうすれば、彼は頬をふくらませてこう言ってきた。
「……なんでって……服のこと?」
 でも、とキラは口をかしげる。
「君達のサイズの私服を持ってきている人がいないんだよ。バルトフェルドさんもラウさんも、君達より大きいし。ネオさんなら着られるかもしれないけど」
 二人では袖や裾をかなりおらないと無理ではないか。だから、整備服で我慢してくれないかな? とキラは付け加える。
「オーブの軍服はいやでしょ?」
 それならば、まだサイズはあるが……と付け加えた。
「……服じゃなくて……暇つぶしできるものが欲しい。スティングは、あのネオによく似た人が持ってきた本でいいって言うけど、僕はそれじゃつまらない」
 本なんて元々読まないから、とアウルが訴えてくる。
「暇つぶしの道具か」
 さて、どうしようか。そう思いながら無意識にネオへと視線を向けた。
「トランプか何かでいいんだが、あったら渡してくれないか?」
 それで文句が減るはずだ、と彼は苦笑混じりに言う。
「そういうものでいいなら……あぁ、そう言えば、頼まれて多ゲームの試作品があったっけ。あれのバグ探しを手伝って貰ってもいいかな」
 せっぱ詰まっているわけじゃないけど、とキラは口にする。
「ゲーム?」
「そう。アクションゲーム」
 やってくれるなら、後で端末とマニュアルを持ってくるけど、とアウルへと視線を向けた。
「面白そうだから、やる」
 それだけで機嫌がよくなるのは、彼が本当に退屈をしていたからなのだろうか。それとも、こちらの判断を探っているのか。きっと、前者だと思うのだが……とキラは心の中で呟く。
「しかし、ずいぶんと寛大なんだな」
 ネオが小さな声でそう言う。
「……と言うより、こちらとしてはお前達の処遇に悩んでいる、と言うこともあるが……」
 カガリがそれに即座に言い返した。
「地球軍では、ネオ・ノアローク大尉及びその部下三名は死亡したことになっているそうだ」
 つまり、ここにいるお前達は幽霊と言うことになるな……と彼女は続ける。もう少し言葉を選べばいいのに、とキラは思う。
「まぁ、予想はしていたが……思ったより早かったな」
 どのみち、自分たちは使い捨ての道具だからな、とネオは自嘲気味に口にする。
「と言うわけで、あちらが所有権を放棄してくれたからな。この際、拾った人間の権利を行使するかどうか、それを悩んでいるところだ」
 拾った以上、最後まで責任を取らないといけないだろうし……とカガリはわざとらしいため息をついてみせた。
「と言っても、拾ってきたのはキラですけど」
 さりげなくラクスが口を挟んでくる。
「でもステラちゃんはシン君でしたわね」
 そうなると、シンに責任を取らせなければいけないのか……と真顔で彼女は付け加えた。
「流石にそれはまずいな」
 カガリも真顔で言い返す。
「でしょう?」
 まぁ、それもネオの判断次第だが、とラクスは笑った。
「って言うか、相変わらず拾いものが得意なのか、嬢ちゃんは」
 ぼそっと彼がそう呟く。
「ネオさん?」
 何故、彼がそんなことを言ったのか。思いあたるものがないわけではない。だが、少なくとも《ネオ・ノアローク》にはその時の記憶はないはずだ。
「……俺、今、何か言ったか?」
 その事実に一番驚いているのは本人のようだ。
 だが、ひょっとしたら彼の中に《彼》がまだ残っているのかもしれない。その可能性がわかっただけでも嬉しい。そう考えている自分がいることに、キラは気付いていた。



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