そのデーターを見た瞬間、思わず頭を抱えそうになった。
「身体データーは記録に残っている鷹さんのものと同じ、と」
 しかも、マインドコンロトールの痕跡も確認できたと言うおまけ付き。
 予想はしていたが現実としてつきつけられると、ここまで衝撃が大きいのか、と思わずにはいられない。
「まぁ、連中にしてみれば、鷹さんの実力は喉から手が出るほど欲しかった、って所なんだろうが」
 そこまでやるか、と彼は呟く。
「あるいは、本人でなくてもよかったのかもしれない」
 自分たちのような存在でも、とラウは小さな声で告げた。
「使い捨てる予定であれば、それで十分だろう」
 その言葉に、バルトフェルドは深いため息をはき出す。
「まだ、本人だっただけましってことか……それとも、既に、という所だな」
 もっとも、三年程度で戦力になるのかどうかはわからないが、とバルトフェルドは吐息だけで付け加えた。
「それで? キラは何と言っているんだ」
 彼らの処遇について、と彼は聞いてくる。その表情には既に感傷は見えない。
「とりあえず、現状維持、だそうだ」
 地球軍には返すわけにはいかないだろう。それに、とラウは苦笑を返す。
「意外なことに、あの三人に懐かれているようだからね、あの子は」
 それをいいことに、カガリ達が彼ら――特にステラ――を気分転換の道具にしている、と彼は続ける。
「もっとも、カガリはかなり過激な意見を口にしてくれているがね」
 彼の頭をフライパンで殴れば、記憶が戻ってくるのではないか。そう言っていたそうだ……とラウは苦笑を深めた。
「……あり得るかもしれないが、あいつの力じゃあの世に行く可能性もあるだろう?」
 アスランですら一撃で昏倒させられるのだ。いくらコーディネイター並みの身体能力を持っているとは言え、ただのナチュラルでしかない彼が無事でいられる可能性は低い。
「キラもそれは心配しているし、ラクス嬢があの子の味方についているから大丈夫だろう」
 何よりも、条約違反だからね……と言えばバルトフェルドが耐えきれないというように笑いを漏らす。
「お前がそんなことに気を回すとは……キラの影響はすごいと言うことだな」
 いいことだ、とそのまま口にした。
「……それよりも、あなたはラミアス艦長の事を考えられたらいかがですか?」
 親しくされていたのでしょう? といい返す。
「確かに。だが、とりあえず、俺としては彼女の気持ちを優先したいからね」
 親しくしてはいたが、それはあくまでも親愛であって恋愛ではなかった。バルトフェルドはそう言う。
「彼女にとって特別なのは今でも鷹さんだけだし、俺にとってもアイシャ以上に思える女性が現れるとは思っていない」
 もう少し時が流れていれば、共に暮らすという選択肢もあったかもしれないが、それも恋愛感情から来るものではない。彼は断言をする。
「幸せのまっただ中にいる人間にはわからないさ」
 とはいうものの、彼に記憶を取り戻して欲しいと思うのも事実だ、とバルトフェルドはいう。
「そうすれば、キラも自分の中にため込んでいる重荷を少しは他人に押しつける気になってくれるだろう」
 そう言った意味で、彼は特別だった。
「否定はしませんよ」
 だが、それとは別の意味で彼女は自分を特別だと思ってくれている。それで十分だ。
「あの男は昔から面倒見だけはよかったですしね」
 初めてあったときにはかなり構い倒されたような気がする。しかし、そのころには自分は真実を知っていたから、素直にそれに甘えられなかった。
 だが、キラはそうでなかったはずだ。
「とはいうものの、私の顔を見ても、レイの顔を見ても何の反応も示さない、と言うことは……交友関係に関してはかなり制限をかけられている、と言うことでしょうね」
 さて、それを解く糸口をどうやって見つけるか。それを考えないと……とラウは言う。
「ふむ。予想外だったね、その反応は」
 キラにとってはいいのかもしれないが、と付け加えたときだ。
「悪趣味ですよ、バルトフェルド隊長」
 背後から声がかけられる。
「ラミアス艦長」
「ラウさんをからかって遊ばないでくださいね」
 キラが嫌がるから……と彼女は微笑む。
「……申し訳ない」
 即座にバルトフェルドが謝罪の言葉を口にする。これだけで二人の力量関係がわかるような気がするのは錯覚か。そんなことを考えていた。



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