「キラです。ドアを開けますね」
 端末で室内にいるものに言葉をかけてから、キラはロックを外した。
「どうですか?」
 そのまま、何の警戒もなく中に足を踏み入れる。他のものから見れば怒られるようなそんな態度も、キラには何故なのか、未だに理解できない。
「キラ! お前なぁ」
「いたんだ、カガリ」
 ため息とともにキラは言い返す。
「いつも言っているだろう? 何があるかわからないんだから、ちゃんと確認してからドアを開けろ、と」
 お前は女なんだし、と言われても……とため息をつく。
「一応、僕、コーディネイターなんだけど」
「それでも、だ」
 馬鹿なことを考える男の力を甘く見るな。カガリがそう付け加えた瞬間、部屋の反対側から変な笑いが響いてきた。
「本当に変わったお嬢さんだ」
 だが、自分は嫌いではない。そう言った人物はベッドの上に横になっていた。そして、その足元の方に二つの人影が見える。
「ネオ!」
 それを確認すると同時に、キラの背後にいた少女が駆け出す。
「だから、心配いらねぇって言ったじゃん」
 水色の髪の少年がこういった。
「……ステラは、特にネオに懐いていたからな。他の連中の言葉なんて聞かないだろ」
 そして、ネオを取り返そうとするに決まっている……と年かさに見える方の少年がそう言った。
「まぁ、案内されてくるとは思わなかったけどな」
 敵さんに、と彼は続ける。
「だって、そいつ、ガイアでおぼれてたぞ」
 ぼそっとシンが呟く。
「あきれて拾っていいのかどうか、確認したくらいだし」
 その言葉に流石のラウも苦笑を浮かべたのがわかった。
「……ステラ。危ないことをしてはいけないって言ってるだろう?」
 それにネオがため息混じりに注意を口にする。そのまま彼女の頭を撫でようとしたのだろう。手を持ち上げたところで痛みに顔をしかめていた。
 彼のそんな仕草も、記憶の中の人のそれに重なる。
「だって、ネオだけじゃなくてスティングもアウルも帰ってこなかったし……みんな、意地悪するし」
 だから、出てきたのだ……と主張をした。
「でも、こっちの人の方が向こうの人よりも優しいよ?」
 ちゃんとネオに会わせてくれたし、痛いこともしなかった……と続ける彼女に、キラは少しだけ顔をしかめる。
 彼女たちの存在が地球軍でどのように認識していたのか。それを思い出したのだ。
 地球軍――いや、ブルーコスモスにとって自分たち以外の人間はただの道具であるらしい。
「とりあえず、お前らは正式な捕虜だ。馬鹿なことは考えるな。それと、ゆりかごとかは直ぐには用意できないが、薬は何とかしてやる」
 だから、決して馬鹿なことをしようとは思うな……とカガリは言う。
「……ずいぶんと寛大だな」
 ネオがこう言い返してきた。
「気にするな。こちらにも色々と理由があるだけだ」
 さらりとカガリが返す。
「とりあえず、俺たちは捕虜だからな。大人しくしているさ」
 この三人の命が保証されている間は、と彼は付け加える。
「大丈夫だろう。モルゲンレーテで既にゆりかごを製造中だ。もっとも必要がないと思われる機能は省かせて貰っているなが」
 予想外の所から開発記録も出てきたし、直ぐに完成するだろう。その言葉に、ネオは感心したような表情を作る。
「流石、と言っておくか」
 侮れないな。そう言いながら視線をキラ達へと向けてきた。その瞬間、彼の瞳の中に浮かんだ感情は何なのか。それを知る術がない、と言う事実がもどかしい。
「……ところで、もう一部屋用意しなくていいのか?」
 男三人なら放っておくんだが、とカガリがそんな空気を壊すように言った。
「……ステラなら心配しなくていい。監視カメラがあっても困ることはない」
 この三人は、ずっと一緒にいたから……とネオは苦笑混じりに言う。
「指揮官の言うことだ。信用しておく」
 後は着換えか、と彼女は呟く。
「男性陣は、とりあえずアンダーと作業着のズボンでいいとして、女の子は……」
「僕の私服を貸すよ。ラクスが用意してくれたのなら、似合うと思うし」
 カガリの言葉にキラが口を挟む。
「あのブルーのか? 確かに似合うだろうが、お前、まだ袖を通してないんじゃ」
「……それは悪いと思うけど、僕の趣味じゃないし……何よりも、ここじゃね」
 着ていられる状況ではない。言外にそう続ければ彼女は納得したようだ。
「そうだな」
 なら、着ても困らない人間に着せて楽しむか……とカガリの心の声が聞こえたような気がする。しかし、そうしてくれれば自分の被害は小さくなるのではないか。その方がありがたい、と思わずにいられないキラだった。



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