おそらく、自分たちが気付かない場所に武器を隠しているのだろう。だが、キラはそれを気にしている様子は見せない。
「こっちだよ」
 いつもの穏やかな笑みを浮かべながら少女を案内している。
「まったく、あの人は……あれで、よく戦ってられるよな」
 あきれているのかなんなのかわからない声音で、シンが呟く。正規の軍人である彼にはキラの言動が理解できないのだろう。
「だからこそ、あの子の傍には人が集まるのだよ」
 敵であろうと味方であろうと、出来るだけ多くの命を救いたいと考えている彼女だから、とラウは言う。
「もっとも、軍人としての正規の訓練を受けているものには、彼女の考えは直ぐに理解できないだろうがね」
 しかし、キラはそれを実践してきた。
 もちろん、最初から出来ていたわけではない。その手で奪ってしまった命も多い、と知っている。そして、その事実に彼女がどれだけ傷ついてきたかも、だ。
 だからこそ、逆にその思いを強くしてきたのだろう。
 あるいは、オーブという国の理念が根底にあるのかもしれない。
 同じようにキラの側にいたにもかかわらず、まったく気付いていない人間もいるが。まぁ、彼の場合、思いこみが強すぎるからかもしれない。いや、自分が見たいもの以外見ていないと言った方が正しいのか。
「そうですね。でも、嫌いじゃないです」
 シンは即座にこう言ってくる。
「何故、かな?」
 レイが《友人》として選んだ彼はやはり面白い存在のようだ。そう思いながら問いかける。
「だって、あの人、嘘言わないじゃないですか」
 どんなときだって、自分が一番最初に行動をする。そう言う姿勢は尊敬できるから……と彼は言う。
「でも、そのせいで自分を追い込みそうだなって、そう思うところは、直して欲しいかも」
 でないと、みんな心配で仕方がないのではないか。そう付け加える彼に、ラウは苦笑を返す。
「君はきちんと状況を認識できるようだ」
 後は公平な目で見られるようになれば、戦場で生き残れる確率が高くなる。ラウはそう続けた。
「……それって、ほめられているわけ?」
「ほめているつもりだよ。そう言う部下であれば信頼できる」
 少なくとも、実力はあってもプライドがそれ以上に高くて状況を歪めてみようとする人間よりは……と笑う。
「……そういや、あんた、あいつの上官だったっけ」
「不本意だがね」
 自分が選んだわけではない。
 しかも、当時の最高評議会議員の子弟という、ある意味、プライドだけは高いメンバーだけが集まっていた。
「まぁ。あのころは私も彼等のことをあれこれ言えない性格だったしね」
 キラにたたきのめされなければどうなっていたか。言葉とともにラウは苦笑を深めた。
「……あんたのような人でも、そうなんだ」
「誰だって間違いを犯す。必要なのは、その間違いを繰り返さないことだ、と思うよ」
 そう考えれば、彼は困ったものかもしれない。
 何度同じ失敗を繰り返しているのか。
 今はここにいないかつての部下の顔を思い出しながら心の中でそう呟いた。その時だ。
「ここだよ」
 いつの間にか医務室に着いていたらしい。言葉とともにキラが足を止める。
「でも、静かにしてね。他にもケガをしている人がいるから」
 優しい声音でステラと名乗った少女に彼女話しかけていた。
「……ネオも?」
「ケガ、って言うほどじゃないけどね……どうやら、脱出装置に不備があったのか……打ち身が酷いみたい」
 だから、静かにしてくれると嬉しいかな? とキラは小首をかしげる。
「わかった。でも、傍にいていいのよね?」
「うん。それは約束してあげる」
 外に監視はおかせてもらうが、室内では自由にしていていいから……と彼女は続けた。
「あと……お薬も用意できると思うけど……具合が悪くなったら直ぐに連絡をしてね」
 他にも必要なものは全部そろえる予定だが、時間がどれだけかかるかわからない。だから、とキラはゆっくりした声音で説明を続ける。
「……まずは、着換えかな? 地球軍の軍服はないけど、僕の私服を貸してあげるね」
 そう言えば、ステラは嬉しそうに微笑む。
「あぁしていると可愛いのに」
 シンが小さな声で呟く。
 これは、そう言うことなのだろうか。だとするならば、応援した方がいいのかどうか……とラウは首をかしげた。



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