まさか、インパルスが最後の一人を拾ってくるとは思わなかった。 「と言うよりも……まさかこちらに引き渡してくれるとはね」 苦笑と共にバルトフェルドがこう言ってくる。 「確かに。まぁ、あちらはそちらに手が回らないと言うことなのかもしれませんが」 それにラウはこう言い返す。 「何よりも、こちらには彼等に関する資料もありますしね」 それがなければ彼等を苦しめて殺すだけだ。 いくらギルバートでも、利用されただけの子供をそんな風に死なせるのは寝覚めが悪かったらしい。あるいは、例と彼等を重ねたのか。 どちらにしても、こちらにとっては都合がいいと言える。 「あぁ、着いたようだな」 言葉とともにインパルスに抱えられたガイアがデッキに姿を見せた。 「四つ足か」 その瞬間、別の意味でバルトフェルドの表情が輝く。 「そう言えば、バクゥもラゴゥも四つ足でしたね」 彼にしてみれば、こちらの方が慣れ親しんだ形なのかもしれない。そう思いながらラウは口にした。 「誰かさんにはさんざんバカにされたがね」 即座にこう切り替えされる。 「あぁ。そんなこともありましたね」 あのころの自分は世をすねていたから、と平然と付け加えた。 「まぁ、そう言うことにしておくよ」 確かに、今とあのころの誰かさんを比べると別人のようだからな……とバルトフェルドが笑う。 「キラ! 一人で行くんじゃない」 だが、それは直ぐに苦笑に変わった。そんな彼の視線の先で、キラが肩をすくめている。 「気持ちはわかるが、君ではいざというときの対処に不安が残るからね」 足早に彼女の元へと歩み寄りながらラウもそう言う。 「ごめんなさい」 そうすれば、彼女は小さな声で謝罪の言葉を口にした。 「でも、急いだ方がいいかなって、そう思ったから……」 先に連れてきた二人の様子から、と彼女はさらに言葉を重ねる。 「それに、シン君にもお礼を言わないといけないし」 その言葉にラウは苦笑を深めた。 「わかったから。とりあえず落ち着きなさい」 キラの行動の意味はわかっている。ただ、自分たちが心配なだけだ……とその表情のまま付け加えた。 「そう言うことだ」 だから、落ち着け……とバルトフェルドも口にする。 「はい」 「とりあえず、君は降りてきたまえ。シン・アスカ君」 キラの髪をそっと撫でると、ラウは彼に声をかけた。 「報告の義務があるだろう?」 さらにそう付け加えれば、彼は直ぐに「はい」と言葉を返してくる。ある意味、扱いやすい子だ……と考えてしまうのは、かつて自分の部下だった少年達を覚えているからか。あるいは、その中の一名が未だに手を焼かせてくれるからかもしれない。 「さて、こちらのオコサマが素直に言うことを聞いてくれればいいんだが」 先に連れてきた二人は意識を失っていたから早々に拘束をして彼の傍に放り出しておいたが、今度のオコサマはしっかりと意識があるらしい。 バルトフェルドがそう言って顔をしかめたときだ。 「武装を解いて素直にこちらの指示に従ってくれるなら、直ぐにネオさんにあわせてあげるよ」 そこの中に閉じこもっていても意味はないから、とキラが中のパイロットに声をかける。 「それとも、ネオさんに会いたくない?」 彼女の言葉はいつでも真摯な響きがこめられている。だからこそ、ラクスやギルバートと違った意味で彼女の言葉が力を持っているのだろう。 それに負けた自分だからこそ、そう言えるのだが……とラウは小さな笑みを浮かべた。 その時だ。 『本当?』 どこか舌っ足らずな少女の声が響いてくる。やはり、最後の一人はあの少女だったか……とラウは心の中で呟く。 「本当だよ。ネオさん達はみんな医務室にいるから……君は、ケガをしていない?」 小首をかしげながらキラはさらに言葉を重ねた。 『……嘘言ったら、殺してやるから……』 どうやら、彼女もキラの言葉に心を揺さぶられたらしい。こう言ってくる。 それにキラは綺麗な笑みを浮かべた。 |