アークエンジェルのパイロット達が敵の指揮官を確保したせいか。それから直ぐに地球軍は撤退していった。
 それを確認して、シンはミネルバへと帰還しようとする。
「……はぁ?」
 だが、その途中で信じられないものを見つけてしまった。
「ガイアが、おぼれてる?」
 なんて言うか、犬が必死に犬かきをしようとして失敗しているような、と言えばいいのだろうか。そんな光景に、シンは一瞬、思考を手放しかける。
「無視、出来ないよな、あれは」
 やっぱり、とため息をつく。
「とりあえず、武装だけは殺して……それから、どっかに運べばいいんだろうけど……」
 どこに、と首をひねる。
「確認すればいいか」
 考えるのが、と言ってはいけないのだろう。だが、疲れているから余計なことで時間を潰したくないのだ。
 だから、とさっさとミネルバに通信を繋ぐ。
『どうしたの、シン』
 即座にメイリンが言葉を返してくる。
「ガイアがおぼれてるんだけど……拾ってどこに運べばいい?」
 見捨てるのは色々な意味でまずいだろう? と付け加えた。それに彼女も『そうね』と同意の言葉を口にした。
『ちょっと待ってて。今、艦長に確認するわ』
 彼女にしても直ぐにどうしていいのかわからないのか。そう告げると同時に、グラディスへと声をかけているようだ。
「さて、と」
 その間に、とシンはもう一度ガイアへと視線を戻す。
「武装はつぶしておいてもいいよな」
 運ぶときに邪魔だし、と思いながらビームサーベルを抜く。
「一撃で決めないと」
 反撃をされると厄介だ。そう考えれば、本当にキラのすごさがわかる。ほぼ一撃で地球軍の機体を動作不能にしていた。そのおかげで、その機体のパイロットを捕虜にするのも楽らしい。
 しかし、自分にそれが出来るだろうか。
「やらなきゃないんだよな」
 慎重に目標を確認する。
「よし」
 そう呟くとインパルスを急降下させた。そして、そのままビームサーベルで回線を断絶させる。
『シン』
 タイミングよく、メイリンからの呼びかけが耳に届く。
「どこだって?」
 即座に聞き返す。
『アークエンジェルに運んで欲しいそうよ、パイロットは。ガイアもついでに運んでいいんじゃない?』
 向こうでいらないようなら、引き取ってくれば? とグラディスが言っている。そう彼女は付け加える。
「何か適当だな」
 でも、彼等の場合、機体があっても困るのかもしれない。
「わかった。アークエンジェルに向かっていいんだな?」
 自分が、と確認をする。
『構わないって。でも、あまり長居はしないでね?』
 やることは山積みなのだからさっさと帰ってこい。そう言いたいらしい。
「あのなぁ……」
 確かに、キラと話しはしたいが、あちらだって戦闘が終了したばかりでごたついているだろう。そこで部外者があれこれ出来るはずがないではないか。
「俺だって、その位のことはわかってるよ」
 アスランじゃあるまいし、と思わず付け加えてしまう。
『そう言うことにしておくわ。そのアスランにばれないようにね』
 と言うことは、また何かをやらかしたのだろうか。しかし、確認しない方が身のためだろう。
「了解」
 言葉とともにガイアの機体を背後から抱き抱えるように持ち上げる。
『放せ!』
 その瞬間、ガイアのパイロットが思いきり抵抗をし始めた。だが、それは既に予想されていたことだ。だから、落とすようなことはしない。
「お前は捕虜になったんだから、大人しくしろよ」
 無駄だろうな、と思いながら、シンはそう言う。
『うるさい! ネオを返せ!!』
 ひょっとして、あの時いた女の子なのだろうか。聞こえてきた言葉からそう判断をする。
「はいはい。まったく……女の子はもう少し大人しくしている方が可愛いよな」
 ため息混じりにこう呟く。そのまま、インパルスを指示されたポイントへと向かわせた。



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