フリーダムの姿に、ザフトのパイロットから歓声が上がった。それは、きっと、フリーダムが自分たちに攻撃をしてこないとわかっているからだろう。
 しかし、だ。
「何をする気だ、キラ」
 ただ一人、アスランだけは顔をしかめる。
「お前は戦場に出ちゃいけないのに」
 その表情のまま、こう呟いた。
 しかし、彼女が駆る機体は今、まさに自分たちの目の前にいる。しかも、何か目的があるのか、一直線に進んでいく。
 ザフトはそれを阻もうとはしない。
 それは、ギルバート自身の命令だけが理由ではないはずだ。
 だが、地球軍にはそれを認める理由がない。
 何よりも、連中にとってフリーダムは己の野望を打ち砕いた存在でもある。撃破したいと思っている者が多いようだ。次々とその行く手を塞ぐように姿を現す。
 もちろん、そんな連中がキラに勝てるはずがない。
 しかも、彼女の方は手加減をしているのか。推進装置だけを破壊しているのだ。
「……バカなんだから、お前は」
 だが、それをアークエンジェルの者達は認めているらしい。
 まるでそんな彼女の行動を見習うかのように、出来るだけ相手のパイロットを殺さないように攻撃をしていた。
「そんなことをすれば、戦場が混乱するだけだと、言っただろう?」
 どうして、自分の言葉が届かないのだろうか。
 それとも、届いているにもかかわらず彼女は無視しているのか。どちらが正しいのかなんてわからない。
 ただ、これだけは間違いないだろう。
 自分と彼女の考えが違って来ている。
「認められないのに」
 以前の自分ならば、それを否定できない。
 それはどうしてなのか。
「……カガリに、ふられたからじゃない……」
 キラが自分の手の届かないところに言ってしまったからでもない。そう呟きながらも、フリーダムの動きから目を離すことができなかった。

 ウィンダムの中に一機だけパーソナルカラーで染められた機体が確認できた。
「……あれ、だ」
 その動きのくせが、自分の記憶の中にあるストライクのそれと重なる。だから、間違いない。
『キラ……見つけたな?』
 バルトフェルドも気がついたのだろう。こう呼びかけてくる。
「はい。ちゃんと拾ってくださいね」
 そう言い返すと、キラはためらうことなくそのウィンダムへと向かう。その途中に見慣れない機体が割り込んできた。
『それは、あの三人のうちの誰かだね』
 即座にラウがそう言ってくる。
「……落とします」
 一緒に持って帰らないとまずいだろう。だから、とキラは言う。そのまま、ためらうことなくビームライフルの引き金を引く。それは、相手の推進装置を片方撃ち抜いた。
「後、お願いします!」
 落ちていくそれを確認して、彼女はそう言った。それに、ムラサメのパイロットからすぐに言葉が返ってくる。
「他にも、二機、いると思うけど……」
 出来ればでてきて欲しくない。そうでなければ早々に出てきて欲しい、と矛盾した考えが脳裏をよぎる。
「ともかく、あの人を確保しないと」
 それから考えよう。
 心の中でそう呟くと、ビームライフルの照準を合わせる。
「ごめんなさい」
 この言葉とともに、キラは引き金を引く。
 予想していなかったのか。相手は避けることもなくその攻撃を受ける。そのまま、機体が海面へと落下していく。
 とっさにキラは、それを拾い上げようとフリーダムを降下させようとした。
『こちらは任せなさい』
 それをラウが制止する。代わりに、彼のムラサメが降下をしていくのがわかった。
 彼ならば、任せても大丈夫だ。
 そう考えて、一瞬、気を抜いたのがいけなかったのか。海面からの攻撃に気付くのが遅れた。
「ラウさん!」
 悲鳴を上げるキラの前で、彼は辛うじてそれを避ける。
『大丈夫だよ、キラ。だが、気をつけなさい』
 ラウがそう呼びかけてきた。
「はい」
 これだけでキラは冷静さを取り戻す事が出来る。そして、海中にいる敵の機体を捕捉した。
「あれも、持って帰らないといけない機体だね」
 いったいどうしよう。そう思いながらも相手を誘うようにフリーダムを海面まで近づけていく。
 それに相手が乗ってきた。これならば大丈夫、とキラは相手の動きのくせを把握しようとする。そして、次の瞬間、ビームライフルで海面を引き裂いた。



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