地球軍が再度進撃をしてきたのは、キラが彼等に関する情報を見つけるのとほぼ同時だった。
「……出てくるでしょうか」
 キラが小声でこう問いかけてくる。主語は省略されているが、彼女が誰のことを言いたいのかはわかった。
「出てくるだろうね。あの様子では、あの三人が地球軍の中心的な戦力だろう」
 そして、あの三人は彼の命令しか聞かないらしい。
 地球軍――いや、この場合、ブルーコスモスと言うべきか――がどれだけ非道な存在かを自分たちは知っていたはずだ。だが、それを現実として目の前に突きつけられれば、また話は違う。
「僕が出ていけば、また、戦場は混乱するのでは?」
 アスランにいわれた言葉が彼女には重くのしかかっているらしい。それとも、自分の言葉だろうか。
「大丈夫だろう」
 だから、ラウは微笑みながら言葉を口にした。
「あの男のことだ。私たちが出ていくことぐらい予測しているだろう。事前に、各指揮官に注意をしているのではないかな?」
 そうでなくても、その程度ぐらい対処できないはずがない。そうも付け加えた。
「あの男を連れてきたいのだろう?」
 この言葉に、彼女は小さく頷いてみせる。
「なら、我々が行くしかない。そうだろう?」
 ザフトには彼等の命を気にかける理由はない。だから、自分たちが動かなければいけないのだ。
「そう、ですね」
 確かに自分たちが動かなければ彼等を守れない。しかし、いいのだろうか……と彼女は不安げな表情を作る。
「まぁ、私個人としては、私以外の相手にそれだけ真剣になる君を見ているのは少し面白くないがね。その上、相手があれだ」
 個人的には色々と複雑なものがある、と続けた。
「ラウさん」
「それでも、君が選んでくれたのは私だしね。あれに向けている感情は私に向けられているそれとは違う、とわかっているから、妥協できる」
 何よりも、ムウが戻ってくれば、厄介ごとを全部押しつけられるかもしれない。そんなことも考えていた。
 もちろん、それはあり得ないとわかっている。
 逆に、キラが厄介ごとをさらに抱え込むかもしれない。しかし、それのフォローは楽しいだろう、と思えるのだ。
「君がどうしたいか。それが最優先事項だ」
 自分にとってはね、と付け加える。
「僕は……」
 それに、彼女は少しためらうような表情を作った。
「君は?」
 構わないよ、と囁いて次の言葉を促す。
「あの人を取り戻したいです」
 自分のためだけではなく、マリューのためにも……と彼女は小さな声で告げた。
「それも、僕のワガママなのかな?」
 キラは小さな声でそう付け加える。
「その位、可愛いものだと思うよ」
 自分に比べれば、とラウは苦笑と共に返す。
「世界と心中しようとした男がここにいるだろう?」
 この言葉に、キラは一瞬目を丸くする。だが、直ぐに微苦笑を浮かべた。
「でも、そのおかげで僕はラウさんと会えました」
 そして、真実を知ることが出来た。だから、と彼女は言う。
「なら、私にとっても同じ事だよ」
 ムウがいたからこそ、自分はこの世に生まれることが出来た。そして、キラと出逢えたのだ。
「ふむ。そう考えるなら、さっさとこの借りを返さなければなるまい」
 だから、自分にとっても彼を取り戻すのは必要なことではないか。そう付け加える。
「もっとも、私には君ほどの実力はないが」
 それでも、フォローぐらいは出来るだろう。この言葉に、キラはようやく微笑みを浮かべる。
「手伝ってくれますか?」
「もちろんだよ、キラ」
 君が望むのであれば、と続けた。
「と言うことで、準備をしないとね」
 この言葉に彼女は小さく頷く。そして、そのまま二人で部屋を出たときだ。
「遅いぞ」
 言葉とともにバルトフェルドが声をかけてくる。
「バルトフェルド隊長……」
「まだ、皆には教えていないがね。彼が出てくる、と考えているのだろう?」
 ならば、さっさと拾いに行くか。彼はそう続けた。
「……ばれていたのですね」
 キラが小さな声で問いかける。
「希望が同じだけだよ」
 彼は言葉とともにキラの頭に手を置く。その仕草に苛立ちを感じないのは、それが保護者としての行為だとわかっているからだろうか。
 そんなことを考えてしまった自分に、ラウは小さな笑いを漏らした。



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