アークエンジェルでは、キラとカガリ達が話し合っているわきで、ラウとバルトフェルドが額を付き合わせていた。
 話題は、もちろん、彼のことだ。
「やはり、本人だったか」
 ため息とともにバルトフェルドが呟く。
「記憶はなかったようだがね」
 自分やキラの顔を見ても何の反応もしなかった。ただ、面倒見のよいところは変わっていなかったようだが、とラウは続ける。
「で、どうする?」
 対処は、とバルトフェルドが問いかけてきた。
「キラが気にしていたからね。可能なら捕獲、と言ったところだろう」
 あの男の性格を考えれば、間違いなく前線に出てくるはずだ。お荷物がいなければなおさら、と続ける。
「お荷物、な」
 そう言えば、とバルトフェルドが人の悪い笑みを浮かべた。
「本土に戻ったお荷物さんは、軍人達から無視されているらしい」
 とりあえず、書類の山を押しつけられて、その処理だけをさせられているとか……と彼は小声で囁いてくる。
「ずいぶんと滞っているだろうね、それは」
 軍の書類が、とラウは笑う。
「いいんじゃないのか? そのせいであれこれ出来ない、と言ってしまえばいいだけだしな」
 こちらも対策が取りやすい。彼はそうも続ける。
「確かに。否定できないね」
 あちらの動きが遅れている間に、こちらに情報が来るだろう。それだけで十分だ、とラウも頷く。
「それで?」
 あちらとの話し合いは、とバルトフェルドは問いかけてくる。
「必要があれば協力をする、と言う方向で進めてきたが?」
 それ以上のことはカガリとラクスが同席の上で進めた方がいいだろう。そう判断した、とも付け加える。
「そうだな。あの二人がメインにならないとな」
 政治のことは、とバルトフェルドも頷く。
「そうなると、問題はやっぱりあれか?」
 邪魔しに来そうだが、と彼は続ける。
「カガリ嬢の活が聞いていればいいのだがね」
 どうだろうか、と首をかしげた。
「しかし、私たちのことに気付いていなかったとは思わなかったよ」
 それが一番ショックだったようだね、とラウはくつくつと笑う。
「そうじゃないか、と思っていたんだが……まさか現実だったとは」
 まったく、とバルトフェルドもあきれように口にした。
「自分にとって都合のよいことしか見ない性格を何とかしなければ、あのままだろうね」
 彼は、と付け加える。
「とことんまで突き落としたら、何とかなるんじゃないのか?」
「逆にとんでもない行動に出る可能性もあるが」
 パトリック・ザラがそうだったように。そして、今でも彼の行動は正しかったと思っているコーディネイターも少なくないのだし、とラウは顔をしかめる。
「あぁ。そいつらと合流されても困るか」
 だが、とバルトフェルドは続けた。
「今だってその可能性はないと言い切れないだろう?」
 カガリに三行半を貰ったのであれば、と言われる。
「まだ大丈夫だろう」
 それにラウはこう言い返す。
「何故、そう言いきれる?」
「キラからはまだ、最後通牒が突きつけられていないからね」
 彼女が本気で『アスラなんか嫌い!』と言ったなら間違いなくアスランは暴走するだろう。彼にとって、ある意味キラの存在がアイデンティティを保つためのアイテムなのだから。
「私としては、さっさとキラ離れをして欲しいがね」
 アスランには、と続ける。
「……キラに子供が出来たときが怖いな、ある意味」
 この言葉に、その可能性があるかと気がつく。
「本気で、あれの性根をたたき直さないとね」
 いずれはそんなことも考えるだろう。だから、とラウは付け加える。
「お前達よりも周囲の方が期待するだろうからね」
 もっとも、とバルトフェルドは楽しげに目を細めた。
「その前に厄介ごとが控えているぞ」
 女性陣はそのつもりらしい。そう言われてラウも苦笑を返す。
「結婚式かね。まぁ、それに関しては私は添え物だろう?」
 主役はあくまでもキラだ。だから、と付け加えればバルトフェルドは声を上げて笑った。



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