『それは是非とも、この目で見たかったね』
 レイの報告を聞いて、ギルバートは笑いを抑えきれないようだ。
『姫も思いきったものだ』
 だが、それは正しい判断だろうね……と彼は続ける。
「俺も、そう思います」
 アスランのあの様子ならカガリが振るのは当然だ。そして、キラにあきれられるのも、だ。
「しかし、どうするのですか?」
 彼の処遇は、と言外に聞き返す。
『これからの彼の言動を見てから決めるよ。これで反省するなら、まだ、使い物になるだろうが』
 そうでなければ、自分も見捨てる。言外に彼はそう付け加えた。
『そう言うことで、今しばらく彼の観察を頼めるかな?』
 彼の言葉にレイは頷く。
「わかっています」
 その位なら何と言うことはない。
『君の治療のことに関しては、どう考えても戦後になるだろうね』
 もっと早い方がいいのだが、とギルバートは残念そうに付け加える。
「それは仕方がありません。俺としては、可能性があるだけで十分です」
 自分一人が宣戦を離れたとしても、戦力してはどれだけの影響があるかわからない。だが、共に過ごしてきた者達の気持ちを考えれば影響がないとは言えないはずだ。
『レイ』
「大丈夫です。俺は死にませんから」
 戦死しない。必ず、戦争が終わるまで生き延びてみせる……とレイは笑う。
『信じているよ』
 それに、ギルバートは微笑み返す。
『では、またね』
 その表情のまま、彼は通話を終わらせる。
「ギルも、無理をしなければいいのに」
 そう言っても、戦争が終わらない限り、彼が休めることはないのではないか。ならば、すこしでも早くこの戦争を終わらせるしかない。
「あの人達のためにも」
 あの心優しい人のためにも、平和な時間を取り戻さなければいけないだろう。そのために自分が出来ることは何か。
「敵を殺すだけじゃダメなんだろうな」
 本当に難しい。そう思わずにはいられないレイだった。

 鬱陶しい。
 ぶん殴ってやりたいが、あれでも上司だし……とシンはため息をつく。
「まったく……今が待機でなけりゃ、誰があいつと同じ空間になんていたいかよ」
 前の大戦の英雄と言っても、今目の前にいる相手はただのゴミではないか。それに比べれば、まだカガリの方が百倍もましだ。
 そして、他人の命を奪う意味を知っているキラとは月とすっぽんではないか、とすら思える。
 だからこそ、どうしてあの時家族を守ってくれなかったのか。そう聞きたい気持ちは今でもある。
 だが、自分が同じ場面で彼らを守りきれるか。そう言われれば難しいという答えしかないこともわかりきっていた。
 それでも、キラとゆっくりと話しはしてみたいと思う。
 自分の中にあるわだかまりが、それで消えるような気がするのだ。
 だが、そのためには彼女の安全を確保しなければいけない。そして、現在の問題は取り逃がしたあの連中と目の前にいる上司ではないかと思えてならない。
「……少しは静かにしろよ」
 と言うか、周囲の迷惑を考えろ。そう呟く。
 もっとも、それが出来ないから、今、彼が置かれている状況になるのだろうが。
「ちょっと、デッキの方に出ていていいかな」
 それでなければ、せめて通路にいたい。
 このまま、アスランと同じ空間にいたら、自分までおかしくなりそうだ。
 そう考えながら、シンは小さなため息をつく。
「やっぱ、殴っちゃダメか?」
 そうすれば、きっと静かになるだろう。その方が自分のためにはなる。でなければ、誰かが顔を出してくれないか。
 そんなことを、本気で考えてしまうシンだった。



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