目の前の光景に、流石のレイも目を丸くしている。
「なんて見事なストレート……」
 呆然とした口調でルナマリアが呟いた。
「確かに」
 それ以外に何をいえというのか。そう言わずにはいられない右ストレートをカガリは繰り出した。そして、それはアスランの腹に見事に食い込んでいる。
「ぐっ……」
 いくらコーディネイターとはいえ、あれはきつい。
 カガリが手をひくと同時に、アスランはその場に崩れ落ちた。
「まったく……キラ、キラとうるさい奴だ。少しはキラの迷惑も考えろ」
 彼の後頭部を見下ろしながらカガリは吐き捨てるように口にする。
「そもそも、お前は誰と付き合っていたんだ?」
 え? といいながら、今度は彼を蹴飛ばす。
「……カガリ……」
 それには流石に怒りを感じたのか――それとも、ようやく我に返ったのか――アスランが彼女をにらみ返している。だが、カガリの方はまったく気にしていないようだ。
「そして、キラが選んだのは誰だ?」
 お前じゃないだろう、と彼女は続ける。
「……だが……」
「第一、お前が私を選んだ時期は、キラがラウを連れてきたときよりも早いぞ」
 それなのに、未だにキラにまとわりついて、彼女が困っているだろう……と彼女は続けた。
「いいだろう! 俺はキラの幼なじみなんだ」
「だから?」
 アスランの言葉にカガリはあっさりと切り返す。
「幼なじみの権利と夫の権利。どっちが優先だ?」
 さらに彼女は続けた。
「……夫?」
 何か、信じられない単語を聞いたという表情でアスランは聞き返している。
「やっぱり忘れていたか」
 あきれるしかないな、とカガリはため息をつく。
「キラとラウは正式な夫婦だ。私もおば様も認めている」
 彼女があんな状態だったから、式はあえて挙げなかったが……とカガリは言った。
「そうだな。今回のことが片づいたらマルキオ様にあげて貰おうか」
「カガリ!」
 慌てたようにキラが彼女の名を呼ぶ。
「いいじゃないか。写真ならミリアリアが喜んで取ってくれるぞ。ついでに、こいつみたいなバカを排除できる」
 ドレスは自分が用意する。いや、ラクスも同じ事を言い出すはずだから、そのあたりのことは相談だな。彼女はそう言って笑った。
「まぁ、それに関しては後でゆっくりと考えよう」
 とりあえず、アークエンジェルに戻らないと……とカガリは言う。
「確かに、色々と話し合わなければいけないことがあるね」
 結婚式のことを除いてでも、とラウは頷き返す。
「……それはそうですけど……」
 でも、とキラは彼の顔を見上げていた。
「アスランのことは気にしなくていい。カガリ嬢と彼の間のことだからね」
 二人できちんと話し合わなければいけない。だが、アスランはキラをいいわけにして逃げ回っている。それにカガリがとうとうきれただけだ。状況はよくわからないが、とても納得できる。
「そういうわけで、アスラン。お前はオーブに戻ってこなくていい」
 もう、お前と付き合う気はない。カガリはそう宣言した。
「カガリ!」
「私にとってもキラにとっても、今のお前ではマイナスにしかならないからな」
 きっぱりと言い切られて、アスランはショックを隠せないという表情を作る。あるいは、何をしても自分が見捨てられるはずがないと考えていたのか。
 でも、今のアスランの様子なら、身刷られても当然だよな、とシンは思う。
 同時に、カガリが格好良く見えてしまったのは何故だろうか。
 アスハは今でも嫌いだ。でも、少しだけカガリを見直していいのかもしれない。そうも考えてしまう。
「……ともかく、アスランはサイテーと」
 そう言うことだな、とシンは呟いた。



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