急な戦闘だから、だろうか。ミネルバ内はかなり混乱していた。レイも直ぐに出撃の準備を始めたようだ。
「さて……我々はどうするべきかね」
 こう言いながら、ラウはさりげなくキラの体を引き寄せる。下手に動けば、彼等の迷惑になるだろう。それは不本意だ、と心の中で呟いたときだ。
「……ヤマトさん、でいいのですかね」
 苦笑と共にエイブスが声をかけてくる。きっと、彼は自分がかつて、何と呼ばれていたのかを知っているのだ。
「はい?」
 それに言葉を返したのはキラだ。それは当然だろう。
「えっと……」
 逆に、エイブスが驚いたような表情でラウを見つめてくる。
「僕じゃないんですか?」
 同じようにキラも彼を見上げてきた。
「間違いではないよ。彼女が私の奥方でね。そもそも《ヤマト》の姓は彼女のものだ」
 苦笑を浮かべると、ラウはそう言う。その瞬間、キラの頬が真っ赤に染まる。きっとカガリから、以前、自分がどのような説明をしていたのかを聞かされていたのだろう。
「あぁ、そう言うことですか」
 なるほど、とエイブスはエイブスで頷いてみせる。
「ともかく、お二人ともブリッジへ……と言うことでしたが」
 今、案内を出来る人間がいない。そう彼は続ける。
「勝手に行動してもいいのであれば、自力で行くが?」
 前回乗船したときに、艦内の大まかな配置は脳内にたたき込んであるから……とラウは言い返す。
「もっとも、部外者が勝手に移動するのは好ましくないとわかっているがね」
 そう言って苦笑を浮かべた。
「そうなのですか?」
 驚いたようにキラが聞き返してくる。彼女の脳内にあるのがアークエンジェルだと言うことはわかっている。
「あの艦は特別なのだよ」
 そのおかげで、キラは何とか心を壊さずにいられたのであれば、どうこう言うつもりは今の自分にはない。
「エターナルにしても、艦長がバルトフェルド隊長だったしね」
 それでキラは納得したようだ。小さく頷いている。
「とりあえず、こちらからブリッジに連絡は入れておきますから」
 すみませんが、自力で……とエイブスが言う。それに頷くとラウはキラへと視線を向けた。
「さて、行こうか」
 あれが来るかもしれないしね、と付け加えてしまう。
「……そうですね」
 アスラン本人もそうだが、彼は来ることで巻き起こるであろう騒動がいやなのだろう。キラは小さなため息とともにそう言う。
 そんな彼女の背中を軽く手で押す。それに促されるようにキラは歩き出した。
 軍艦というのはどこの国で作られてもだいたい共通のフォーマットがある。まして、ザフトの艦だ。ラウには既視感がありすぎる。
 それでも、自分になじんでいない艦、というのは違和感も感じてしまう。
 きっとそれは、自分たちに向けられる視線のせいではないか。
「キラ。もう少しこちらによりなさい」
 とりあえず、それから彼女を遠ざけよう、とラウは囁く。
「大丈夫です」
 なれているから、とキラは言い返してくる。
 一体どこで……と聞きかけてやめた。
「そうか」
 代わりに、この一言だけを返す。
 答えが直ぐに推測できたから、だ。
 間違いなく、それは前の戦争の時であろう。それも、ヘリオポリスから地球へ向かう間ではないか。
 その中で、いったいどのようなことがあったのか。アークエンジェルのクルーだけではなく、今はもう鬼籍に入ってしまった少女の口から聞いた記憶がある。
 それも、間違いなく自分の罪だ。
 しかし、それについて口にするわけにはいかない。そんなことをすれば、追いつめられるのは彼女の方だとわかっているのだ。
 だから、彼女を支えることを優先しよう。
 それが自分に出来る唯一の償いではないか。もっとも、こんなことを考えていると言うことも悟られないようにしなければいけないが。
 心の中でそう呟きながらブリッジへ向かうエレベーターへと乗り込んだ。



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