そんな和やかな空気も直ぐにかき消された。
「……地球軍のMSが確認されたそうです」
 通信を受けていたレイが即座に報告をしてくる。
「オーブ軍の方々には、こちらの人間が接触をしました。直ぐに合流できるよう手はずを整えています」
 だから、と彼は続けた。
「申し訳ありませんが、目的地を変更させて頂きます」
 レイが厳しい口調でそう言う。
「別の問題が持ち上がるかもしれませんが」
 それでも、連中にキラの身柄を渡すよりはましだろう、と彼は続けた。
「ミネルバかな、目的地は」
 彼の態度だけでどこに向かおうとしているか想像がつく。別の問題の意味も、だ。
「はい」
 ごまかしても意味はないと判断したのだろう。彼は素直に頷いてみせる。
「あそこであれば、確実にラウ達を守れます。アスランに関しては、何とかしますから」
 すみません、とレイは付け加えた。
「気にしなくていい。キラのことは私が何とかするしな」
 アスランが来ても、とラウは笑い返す。
「それよりも、敵はあれかね?」
 先ほど逃げ出した、と付け加える。
「いえ。違うようです」
 出てきたのはダガーLだ、と彼は続けた。
「連中でしたら、アーモリーで奪取した機体で出てくるはずです」
 だから、おそらく違う指揮系統の隊だろう。その言葉にラウは頷き返す。
 キラの身柄を欲しがっているものにすれば、あの男にだけ任せておくのは不安だ。だから、保険をかけておいたのだ、と言うところか。
 それを知ったならば、あの男はどのような反応をするだろうか。ふっとそんなことも考えてしまう。
 どちらにしても、今の自分には想像するしかできない。
「……できれば、アークエンジェルに連絡を取りたいのだが……」
「それに関しては大丈夫だと思います」
 ギルバートからも出来るだけ二人に便宜を図るように指示がでているはずだから、とレイは言う。
「どうして、そこまで……」
 理由がわからない、とキラが呟く。
「君があの男に気に入られたから、かな?」
 本当に、どのような理由かはわからないが、とラウはため息をつく。
「まったく、油断も隙もないな」
 キラも彼に好意を抱いているようだし、と付け加えた。
「でも……僕が好きなのは、ラウさんだけです」
 そう言った意味で、とキラは小さな声で主張する。
「わかっているよ。あの男もそう言う意味で君に手を出さないと信じているがね」
 しかし、それを他の者達が信じるかどうかは別問題だろう。特に、あの二人が……と低い笑いを漏らす。
「その前に、アスランのことでうやむやになるか」
 それを見越してミネルバなのか、と思わずにはいられない。もっとも、ただの偶然だろうが。
「……ラウさん」
「大丈夫だ、キラ。私から離れないようにしなさい」
 そして、自分に任せておけ。その言葉に彼女は小さく頷く。
「しっかり掴まっていてください」
 その時だ。レイが叫ぶようにそう言った。反射的にラウはキラの体を抱き寄せる。同時に、車が大きく蛇行した。
 後を追うように地面が爆発をする。
「……キラを傷つけてもいいと考えているのか?」
 それとも別の理由なのだろうか。ラウは忌々しそうに表情を歪める。
「だが、このままでは……」
 車よりもMSの方が機動力は上だ。こうなるとわかっていれば、ムラサメできたものを、と思う。
「大丈夫です。シンが来ました」
 それとルナも、とレイが口にする。
 視線を向ければ、確かにインパルスと赤いザクが確認できた。
「俺たちは、このまま真っ直ぐにミネルバに向かいます」
 言葉とともにレイは大きくハンドルを切る。そのまま、彼はアクセルを踏み込んだ。



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最遊釈厄伝