「キラ……わかっていると思うが……」
 ラウが静かな声で言葉を綴る。
「わかっています。マリューさんには、まだ、言わない方がいいのでしょう?」
 彼のことは、とキラは言い返す。
「あぁ。あの男の可能性は高いが、本当にそうだとは言い切れないからね、まだ」
 自分たちと同じ存在の可能性は完全に消えたわけではない。ラウはそう言い返してくる。だが、彼自身、自分の言葉を信じていないことはしっかりと伝わってきていた。
「はい」
 それでも、マリューを悲しませるよりいいと思う。
「あの男の身柄を確保していれば、また話は別だろうがね」
 身柄さえ確保していれば打てる手はあるだろうが、と彼は続けた。
「……出てくると、思いますか?」
 戦場に、とキラは聞き返す。
「記憶を失っても、あの男の性格がそう簡単に変わると思うかね?」
 それこそ、生まれ直さないと無理なのではないか。そう考えれば、きっと自分で戦場に出てくるだろう。
「お荷物もいなくなった以上、絶対にね」
 オーブ軍という、と彼は続けた。
「……お荷物、ですか?」
 意味がわからない、とキラは聞き返す。彼等の実力はザフトや地球軍にだって負けていないはずだ。
「兵士達の実力ではなく、指揮官がね」
 目を離すと何をしでかすかわからない人間がいただろう? とラウは苦笑と共に教えてくれる。
「あぁ、そう言う意味ですか」
 確かに、自分が知っている《ユウナ・ロマ・セイラン》なら、自分が目立つために何をしでかすかわからない。それが他の者達を危険にさらす可能性を考えずに、だ。
 しかし、今、ユウナ・ロマはオーブ本国で大人しくしているらしい。
 地球軍だけならば、彼がにらみをきかせていなくてもいいと言うことだろうか。
「私やバルトフェルド隊長もそうだが、パイロット上がりの指揮官というものは自分から前線に出たがるものだよ」
 カガリもそうだね、と付け加えられてキラは思いきり納得してしまう。
「おそらく、次に何かあったときには彼は出てくるだろうね」
 そして、傍にいた三人も、だ。この言葉に、彼女は少しだけ考え込む。
 ムウの性格であれば、大切だと思う者達を最後まで守ろうとするだろう。
 ならば、あの三人も確保しなければいけないのではないか。だが、彼等がどの期待に乗っているのかがわからない。
 何とかして、それを調べなければいけないのではないか。
 しかし、きっとばれたら怒られるだろうな……と心の中で呟く。
「キラ……ハッキングをしたいなら、私が傍にいるときにしなさい」
 ため息混じりにラウがこう言ってくる。
「ラウさん?」
「止めても無駄なのはわかっているからね」
 ならば、傍で監視をしている方がいいに決まっている……と彼は笑う。
「どうして、わかったのですか?」
 自分が考えていることが、とキラは口にしてしまった。
「君のことだから、だよ」
 そんな彼女に対して、彼はこう言って笑う。
「あぁ。レイが何を考えているかもわかるかもしれないね」
 かつては彼をよく見ていたから……と続けた。
「そういうものなのですか?」
 見ていただけでわかるものなのだろうか。それならば、他のメンバーもそうなのだろうか、とキラは思う。
「……ラウですから……」
 苦笑ともにレイが口を挟んでくる。
「きっと、ギルも同じようなことをいますよ」
 さらに彼はこう付け加えた。
「そうなんだ。みんな、レイ君が好きなんだね」
 キラがそう言えば、彼は小さく頷いてみせる。
「何を言っているのかな? キラも皆に好かれているだろう?」
 自分だってそうだ、といいながらラウは彼女の体を自分の方に引き寄せた。
「ラウさん!」
 二人だけの時ならばこれだけ慌てない。しかし、ここにはレイもいるのだ。
「彼は気にしないよ」
 笑いながらラウがそう言う。しかし、そう言う問題ではないだろう、と思わずにはいられないキラだった。



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