本当に煩わしい。
 それでも、これが自分の義務だ、と言われては仕方がない。確かに、最初から今回の件に関わっていたのは自分だけだ。そして、放っておけば彼女たちに不利益が生じる。
「……しかし、この間にキラがアークエンジェルに戻ってしまえば……」
 自分たちはまた話をすることが出来なくなるではないか。
「せっかく、手の届くところまで来ていたのに」
 これでまた顔を見ることもかなわなくなる。それを認めることができれば、と言えば答えは否だ。
「逃げるなよ?」
 そして、まるで考えが読めている、と言ったようなタイミングでハイネが声をかけてくる。
「無駄だとは思うが、あいつらの捜索の指示をしないといけないんだ」
 言外に、顔を知っている人間がいないと意味はないだろう……と彼は続けた。
「顔だけなら、あの二人も知っているぞ」
 自分でなくてもいいだろう。そう言い返す。
「だが、あいつらは《FAITH》じゃないからな」
 それどころか、先日アカデミーをでたばかりのヒヨッコだ。
「だから、この役目には向かない。ミネルバのクルーならばともかく、他の隊の連中が指示に従うとは思えない。そう言われればそうかもしれない。しかし、だ。
「お前でもいいだろう」
「だから、俺は一瞬しか連中の顔を見てないんだって」
 一番、連中の顔を知っているのはアスランだろう。そのアスランが戦線離脱をしていいと思っているのか。彼はそう続ける。
「お前が今優先すべきなのは、少しでも驚異を減らすことだろう?」
 誰のため、とは彼は言わない。だが、十分にわかってしまう。
「それについては理解している!」
 連中はまた、キラを狙おうとするはずだ。だが、少しぐらい自分が抜けてもいいではないか。
「でも、顔も見られないって言うのは納得できない!」
 来ているはずなのに、と付け加える。
「その間に逃げられたらどうするんだよ」
 本末転倒だろう、といい帰された。
 自分にしてみればキラに会えない方が本末転倒なのだが、とアスランは思う。しかし、それを主張しても無駄だろう、と言うこともわかっていた。
「……何故、みんな、俺を邪魔するんだ」
 思わずこうぼやいてしまう。
「お前の邪魔をしているんじゃないじゃね?」
 それに対し、ハイネがこう言い返してきた。
「どういう意味だ?」
 言っている意味がわからない。そうアスランは告げる。
「お前に会わせないのは、お前の邪魔をしているわけじゃない。あのお嬢さんを守ろうとしているだけ、って事だろ」
 彼女がアスランに会いたがらないのではないか。彼はそんなことも付け加える。
「キラが? それこそ、あり得ない」
「何故、そう言いきれるんだ?」
 アスランのセリフに、ハイネは即座に聞き返してきた。
「キラと俺は幼なじみで……」
 子供の頃はずっと一緒にいたから、とアスランは付け加えようとする。
「でも、別の人間だよな、お前ら」
 性別も何も違う。だから、考え方が違って当然だろう……とハイネは言ってきた。
「自分がどう考えているかじゃなくて、相手が何を考えているか。それを知ろうとしないで一方的に押しつけていれば、相手に恐がられて当然だよな」
 よく、それでふられるんだ……と彼は苦笑を浮かべる。
「だが、キラは……」
 小さい頃から変わらない。だから、とアスランは言い返す。しかし、その言葉に力がないことも自覚していた。
「思いこみも、時には罪だぞ」
 そんな彼の耳にハイネの言葉が届く。
「……思いこみじゃない……キラは……」
 自分が知っているとおりの存在だ。そう言い返したいのに出来ない。それはどうしてなのか。アスラン自身、よくわからなかった。



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