失敗したな、と顔をしかめる。
 ここはザフトの拠点の一つだ。直ぐに増援が来るに決まっている。
「アウルも、俺にほめられたい一心だったんだろうが……」
 ちょっと先走られたな、と口の中だけで付け加えた。
 しかし、起きてしまったことをどうこう言っても仕方がない。今考えなければいけないのは、どうやって無事に撤退をするか、だ。
「あいつらのことは惜しいが……こいつらを失うわけにはいかないからな」
 あちらに関してはまた次のチャンスがある。だから、と自分に言い聞かせた。
「それにしても……やっぱり、あの金髪の坊主か?」
 自分の精神に引っかかっていたのは、と彼は続ける。おそらく、彼があの白いザク・ウォーリアのパイロットなのだろう。
「それに、もう一人いるな」
 近くに、と顔をしかめる。おそらく、キラの側にいた相手だろう。
 そのあたりのこともきっちりと調べなければいけない。
「……準備不足だったな」
 諸手にあわを狙って返り討ちにあっては意味がないだろう。それもこれも、情報不足のせいだ。しかし、オーブ軍と共にいても、アークエンジェルに関する情報をほとんど入手できなかった。それだけ、彼等は連中から慕われていると言うことだろう。
 ともかく、だ。
 そろそろ本気で撤退しないとまずい。
 そう考えたときだ。ドアの方から人の声が響いてくる。
「……三人とも! 目を閉じろ」
 こう叫ぶ。次の瞬間、ボタンを一つ引きちぎる。それを戦闘の中心部へ向けて投げた。
 一呼吸おいて周囲をまばゆいばかりの光が支配する。あまりに明るい光は凶器に等しい。そして、いくらコーディネイターとはいえ、これに耐性をつけることはできなのだ。
「飛び降りろ!」
 二階からならば、自分でも飛び降りる事が出来る。強化されている彼等であればなおさらだ。
 後は、用意しておいた車か適当な乗り物を奪うかして、ここから離れればいい。
 一瞬でも連中の目をくらますことができれば、後は何とでもなる。
 そして、あの三人が自分の指示に従わない、とは微塵も考えていない。彼等にとって自分の言葉は絶対なのだ。
 そんなことを考えながら、目の前にいる相手を撃つ。
 その体を乗り越えると、そのまま窓ガラスを突き破って飛び降りた。
 彼に続くように三つ同じような行動を取った気配がある。
「走るぞ」
 適当な場所で相手をまくからな、と口にすると傍にいるのかどうかも確認せずに走り出す。その彼の後を足音がいくつか追いかけてきた。

「くそっ!」
 まだ完全に視界が戻ったわけではない。しかし、あの男を逃がすわけにはいかない……と自分も飛び降りようとしたときだ。
「追わなくていい」
 静かな声がそんな彼の行動を止めた。
「何故ですか!」
 そう言い返したのはレイではない。アスランだ。
「あれは……」
「ここで彼の名前を出さない方がいい。下手に出せば、皆に迷惑がかかる」
 彼がどのような存在だったのか、知らないものはいないだろう。ただでさえ、あの艦に遺恨を持っている者がいる可能性は否定できないのだ。
 そう言われては、アスランもそれ以上それについては反論が出来ないらしい。
「あなたが来ている、と言うことは、彼女も来ているのですね」
 代わりに、彼はこう口にする。
「何故、そう思うのかね?」
 自分一人だけで来たとは思わないのか。彼はそう言って笑う。
「あそこには信頼できる人々がいる。私が傍にいなくても何の心配もないが?」
 さらにこう言われて、アスランは言葉に詰まっている。
「ともかく、ここの後始末は俺とこいつでやっておく」
 一番事情がわかっているのはアスランだろう、と言いながら、ハイネが彼の襟首を掴んだ。
「だから、お前らはその人と一緒に戻って議長に報告をしておいてくれ」
 言外に、アスランは見張っているからラウを連れて戻れ、と彼は付け加える。
「わかった。そうさせてもらう」
 確かに、それが一番だろう。
「ハイネ!」
 それが気に入らないのか。アスランは彼に向かって怒鳴る。
「お前はオーブからのお客さんに危害を加えかねないからな」
 それを平然と受け止めると、彼は視線だけで行動をしろと促してきた。それに頷くとラウとシンに視線を向ける。
「行きましょう」
 言葉とともに彼等は行動を開始した。



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