時間は、少し遡る。
「……何で、あんたがここにいるんだよ」
 その人物の姿を見つけた瞬間、シンはいやそうに表情を歪めた。
「いいから、座れ」
 相手に気付かれる、と彼は唇の動きだけで付け加える。それにどうするか、と確認するように視線を向けた。そうすれば、彼は何も言わずに席に腰を下ろす。
「シン」
 さらに、視線だけで彼にも座るように促した。
 レイにまでこう言われては仕方がない。だからといって、彼の顔を見ているのはいやだ。しかし、その隣に座るのはもっといやだ、と思う。
 だが、このままでは周囲から疑念をもたれてしまう、と言うのもわかっていた。
 それで、連中に気付かれては意味がない。
 渋々といった態度を隠さずに、シンはレイの隣に座る。
「いやそうだな、お前は」
 それに気が付いたのだろう。アスランがこう言ってくる。
「あんたの顔を見てたくないからな」
 即座にこう言い返す。
「やらなきゃないことがなけりゃ、誰が」
 本当に、といいながら付け加える。
「……それは、俺だって同じだ」
 自分を嫌っているとわかっている相手の顔なんて義務でもなければ見たくはない。そう言い返される。
 結局、お互い様、と言うことか。
 そう考えたときだ。レイが小さなため息を吐く。
「そこまでにしておけ。こんな人でも何かあればあの人が悲しむらしい」
 忌々しいが、と付け加えられたような気がするのは錯覚だろうか。
「……あの人?」
 誰のことだ、とアスランが問いかけてくる。
「あなたには関係のない相手、ですよ」
 少なくとも、今は……とレイが返す声音に、少しだけ棘が含まれていた。それで彼も怒っているのだとわかった。
「……キラか……」
 それだけで、どうしてこの名前を導き出せるのか。それがわからない。しかし、アスランは確信を持ってその名を口にした。
「さぁ、どうでしょう」
 答える義務はない。レイはそう言うと、視線を外へとそらした。
「……シン・アスカ?」
 彼にはとりつく島がない、と判断したのだろう。今度は矛先をシンに向けてくる。
「俺が答えると思ってるんだ、あんた」
 即座にこう言い返す。
 いくら自分だって『守秘義務』という言葉ぐらい知っている。
 それでなかったとしても、彼に彼女のことを知られてはいけないと言うこともわかっていた。
「お前だって、あいつにこだわっていただろう?」
「それとこれは別問題だろ。第一、あんたに教える方がまずいって事ぐらい、わかっているし」
 彼女たちの方から『アスランには会いたくない』と言われているのだ。親しくしていた相手がそう言わざるを得ないことを彼がした、と言うことではないか。
 それがわからない相手に教えていいわけないだろう。そう思う。
「第一、前に『会いたくない』って言われたんじゃないの、あんた」
 だから、誰も彼女のことを教えようとしないのではないか。さらに言葉を重ねる。
「キラがそう言っているわけじゃないからな」
 どうせ、あいつが……と彼が吐き捨てるように言ったときだ。
「今、『キラ』って言った?」
 背後からこんな声がかけられる。反射的に視線を向ければ、奥に座っていたうちの一人がのぞき込むように声をかけてきている。
「……ノーコメント」
 シンは即座にそう言い返す。
「そう言わずにさ。教えてよ」
 言葉とともに銃口が向けられる。
 いや、それだけではない。後ろからのど元にナイフが突きつけられた。
「シン!」
 レイがそれをたたき落とす。同時に、シンは相手の手首を掴んだ。
「女の子?」
 その細さに、驚愕を隠せない。
「それでも、敵だ!」
 言葉と共にアスランが銃を向けている相手に向けてテーブルを蹴り倒す。
 それを契機に、戦闘が始まった。



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