店の奥。丁度、ホテルが見える窓際の一番端に四人組の男女が座っている。年齢から見て、保護者と親戚の子供、と言ったところだろうか。
 いったい、ここに何をしに来たのか。
 反射的にそう考えてしまったのは、今までの経験からなのかもしれない。そして、その顔を確認したのも、だ。
 次の瞬間、アスランの目は大きく見開かれた。
「……まさか……」
 そんなはずはない。
 あの日、彼は消えたはずだ。
 確かに、自分はその時の光景を目にしてはいない。だが、状況的に彼が生きているとは思えなかった。
 あの後、どれだけの人間が彼を捜したか。
 しかし、見つけられたのは破壊されたストライクのパーツだけだった、と聞いている。
 彼本人は見つけられなかった。だが、あの状況では……と言う結論に達したのだ。
 その彼が何故ここにいるのか。
 他人の空似という可能性もある。
 しかし、どうしても別人だとは思えないのだ。
「彼女たちなら、本人かどうか、わかるんだろうが……」
 だからといって、彼女たち――特にキラとマリュー――をこの場に連れてくることは出来ない。その程度ぐらいの配慮は自分にも出来る。
 と言うことは、オーブの人間はあてにできないと言うことだ。
 後、彼のことを知っているとすればディアッカだろうか。しかし、彼を今すぐここに連れてくると言うことは不可能だ。
「やっぱり、俺がやるしかないんだろうな」
 とりあえず、近くの席を確保して彼等の話を確認しよう。
 そう判断すると、アスランはさりげなく店内を移動する。そして、彼等の近くの席へと腰を下ろした。
 即座に店員がメニューを持ってくる。
 声を出す代わりに、指さすことで注文を告げたのも、万が一彼が本当に《ムウ・ラ・フラガ》であった場合、自分の存在に気付かれないように、だ。
 店員がさったのを確認して、アスランは彼等の会話へと耳をすましていた。

 いきなり私服に着替えて付き合ってくれ、と言われたのには驚いた。だが、彼の真剣な表情から何かあるのだろう、と判断する。
 そして、着替えている最中にレイが大まかな事情を教えてくれた。
 ギルバートかキラに危害を加えようとしている者がいる。その顔を知っているのが彼だけなのだ。だが、自分一人ではいざというときに対処しきれない。そうも彼は続けた。
「だったら、他の人でもいいじゃん」
 シンはこう言い返す。
「だが、お前以上に組んでいて動きやすい相手はいないからな」
 これに対する答えがこれだった。
 つまり、実力のある相手よりも自分がいいと彼が選んでくれたと言うことだろう。そのことが嬉しいと思える。
「そっか」
 シンの呟きをどう受け止めたのか。レイは小さな笑いを漏らす。
「……で? どこを探せばいいんだ?」
 そんな彼に、シンはこう問いかける。
「キラさんは駐車場の入り口でその姿を見掛けた、と言っていたから……おそらく近くにいるはずだ」
 そして、こちらの様子を確認しているのではないか。レイはこういう。
「じゃ……ホテルの様子がわかるところにいるんじゃないか?」
 何かあれば動けるように、とシンは言い返す。
「なるほど。その上、長時間いても違和感をもたれない場所、か」
 その条件で考えれば飲食店関係ではないか。
 それも、あまりザフトの人間が行かないような……とシンは思う。
「……とりあえず、フロントで近くの店の情報を聞くか」
 その中から条件に合いそうな店をしらみつぶしに探せばいいのではないか。
「だが、一カ所見ている間に逃げられたら……」
 レイが何を考えているのか、想像が付いてしまった。きっと彼は律儀に注文をしようとしているのだろう。
「別に、注文をしなくてもいいんだよ。人を探していると言えばいいだけじゃん」
 緊急事態なのに、相手が端末の電源を落としている。そう言えばいいのではないか。
「一番いいのは、子供が生まれる……かな?」
 慌てて探していてもおかしくはない状況で、しかもどこにも確認を求められないとすれば、とシンは付け加える。
「そういうものか」
「あぁ」
 特に自分たちにとって見れば、それは重要なことだろう? とシンは笑う。
「お前がいてくれてよかったよ」
 そんな彼に向かって、レイもまた笑みを返してきた。



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