先ほどから感じる気配に、ラウは微かに眉根を寄せる。
「ラウさん?」
 どうかしたのか、とキラが問いかけてきた。
「何でもない、と言っても君は信用しないだろうね」
 そして、レイもまた同じものを感じているようだ。だが、キラはそれを感じていない、と言うことは相手の方に理由があるのだろう。
「ここに来る前に、ひょっとしたら彼の他に私と同じ存在がいるかもしれない、と言ったことを覚えているかな?」
 こう聞けば、彼女は小さく頷いて見せた。
「どうやら、近くにそれがいるようだ」
 やはり、ここに来るときにキラが見掛けた相手だろう。そう続ければ、レイが顔をしかめる。
「……ギル……」
 レイがそっとギルバートの顔を見つめた。
「ハイネに中に入るように言ってくれるかな。それと、君はアスカ君と行動を共にしなさい」
 それが条件だ、と彼は言い返す。
「本当は行かせたくないのだが……相手の顔を知っているのが君だけとあってはね。仕方があるまい」
 不本意だが、と彼は続ける。
「わかっています、ギル」
 きまじめな表情で頷き返すと彼は部屋を出て行く。
「……本当は君の方がいいのだろうが……」
 その後ろ姿を見送りながらギルバートが呟く。
「レイの実力は確かだろう。それに……私はキラの側を離れるつもりはないからね」
 どのような状況であろうとも、とラウは言い返す。
「わかっているよ。あの子も軍人だからね……こういう事もあり得ることだ」
 彼もそれは覚悟している。そう言ってギルバートは微笑む。
「幸い、あの子の傍にはいい友人がいるからね」
 だから大丈夫だ。そう彼は続ける。
「なるほど。こればかりは自分の手で掴まなければいけないものだしね」
 そう考えれば、レイはレイなりに自分に出来る精一杯のことをしてきたのだろう。もちろん、それは自分の時間が限られていると言うことも否定できない。
 おそらく、彼が友人を選んだのも、自分がいなくなった後のことを考えてのことではないか。
 だが、彼を捕らえている鎖はもうじき解き放たれる。自分と同じように、とラウは心の中で呟く。その時、彼は改めて友人達を認識し直すのかもしれない。
「……ラウさん……」
 その時だ。不意にキラが口を開く。
「あぁ、わかっている」
 今度は、彼女にも《彼》気配がわかったのだろうか。不安そうに問いかけてくる。
「どうやら、近くまで来ているようだね」
 厄介な、と心の中で呟く。だからといって、キラは渡さない。そして、レイのためにもギルバートを殺させるわけにはいかないか。ラウはそう考えながら、さりげなく腰に下げた銃の存在を確認していた。

 おそらく、レイがいるとすればここだろう。
 そう思いながらアスランはギルバートが泊まっているというホテルをみあげた。
「おそらく、中には入れないだろうな」
 彼等が来ているのであれば、そう指示をされているはずだ。そう考えれば、忌々しいとしか言いようがない。
 ラウ達ではなくどうしてギルバートまでそのような判断をするのだろうか。
 かといって、ここでぼうっとしていても意味はない。
 いったいどうするべきか。
 そんなことを考えながら周囲を見回す。
「あそこなら、何かあればわかるか?」
 やがて、彼の瞳はある場所に据えられる。そこにはホテルの出入り口が見える喫茶店があった。
 おそらく、あそこにもザフトの人間はいるだろう。しかし、乗船許可を得て気分転換に出てきた人間を排除まではしないはずだ。
 そう判断すると、アスランは足早に歩き出す。
 そこに何が待っているのか。その時の彼はまだ知らなかった。



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